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朝起きるとーー母が、すごく張り切っていた。
身支度をして食堂に行くと、父とローランは既に着席していた。テーブルには所狭しと料理が並んでいたが、さらに一品、大きな鍋を持ってきた母がローランに、
「お腹、空いているでしょう? しっかり食べて体力をつけてくださいね」
と声をかけた。
鍋からは、ほかほかと湯気が経っている。
領主の妻が毎日食事を作るようなことはないが、今日は特別に腕を振るったらしい。低めの小さなテーブルに鍋を置くと、深さのある皿によそっていく。
「これは……?」
受け取ったローランは、初めて見た、といった表情だ。
「クリーム煮ですよ。ここの郷土料理なんです」
クリームソースでしっかり煮込んだ、ほろほろのお肉と、ごろっと大きめだが、しっかり火が通って甘みを増した野菜たち。割と豪快な料理である。
ちなみに、王立学園の食堂で出される料理は上品だ。
加えてローランはシャルトル家の次男。
決して親からの愛情が深かったとは言いがたい環境だったので、幼い頃はどうだったか分からないが、成長し、優秀さと美貌で周囲からの評判が抜群に高くなったローランを無碍に扱うこともできなかったはずだ。
そういうわけで、普段から上流階級の食事を食べつけている人間は、こういった素朴な家庭料理は馴染みがないかもしれないが。
「うちは北に位置して、王都より少し寒い地域ですからね。こういった温かい食べ物が好まれるんですよ」
と説明しておく。
ミルキーな味わいで消化にも良い、体に優しい食べ物だ。
「私は好きだけど、食べ物は口に合う合わないがありますからね。でも、空腹は満たせると思うから、栄養だと思って食べてみて」
そう勧めると、
「ああ、いただきます」
とローランはスプーンを手に取り、肉を掬う。そして口に入れた。ーー今更ながら、食事をしている姿も様になる男だ。
しっかり味わうように咀嚼したローランが、ゆっくりと口を開いた。皆が彼の感想を固唾を飲んで待つ。そして。
「この味がリアーヌを健やかに育んできたのかと思うと、全ての食材が愛しいと感じます」
……とても独特な感想が口から溢れ出た。なお、本人は至って大真面目である。
「お、おお、そうか。気に入って? くれたのなら良かった」
ローランの個性的な褒め言葉に、少し反応に困った感じの父親は、それでも嬉しそうだった。
結局ローランは、出された食事を全て平らげ、クリーム煮に至っては母に勧められるまま、おかわりまでしたのだった。
⭐︎
その後ローランは、
「おじさんの服じゃなくて、もっと若者らしい服を探さないと」
と言う母に衣装部屋に連れて行かれた。ちなみに、おじさん呼ばわりされた父は「私が、おじさん……」と、少しショックを受けた様子で、ふらふらと食堂を出て行った。
一人取り残されたリアーヌは、二階のテラスに向かった。吹き抜ける風が心地良い場所で、考え事をするのにちょうど良い。そこで、
(帰り、どうするかなぁ)
と考えていると、
「イケメンですね」
と不意に背後から声をかけられ、びくっと体を震わせた。振り向くと、侍女のキリエが立っていた。
「ちょっ……、気配を消して急に声かけないで!」
「このくらいの気配に気付かないのは、お嬢様の怠慢です。鈍ったんじゃないですか」
辛辣な言葉に、ぐうの音も出ない。
ただ、キリエには暗殺者集団に属していた経歴があり、気配の隠し方は超一流だ。
五歳年上で、子供の頃から侍女兼護衛として仕えてくれているキリエは、アンリの時もリアーヌである今も、最も信頼を置ける人物だ。
同時に、一人っ子のリアーヌにとって姉のような存在でもあり、どうにも頭が上がらない。
そんなキリエが、にやにやしながら口を開いた。




