28-4
(……え?)
全ての思考が停止した。
噛み付くよう、奪うよう繰り返される口づけに、息がうまくできず、呼吸が乱れてくる。
一度、唇が離れ、空気を吸い込むと同時に、再び唇が奪われる。開いた唇の間から舌が入ってきて、リアーヌの舌に絡められた。
体と体の間は隙間なく密着し、身動きすらできない。
以前交わした、触れるだけの口づけとは全く違う深い口づけ。渇望するように、存在を確かめるようにーーそして一つに溶け合うように。
響きやすい廃屋の空間に、唾液が混じり合う音が反響した。
「………ん……」
ようやく唇が離れた時には、足に力が入らなかった。ふらふらと近くの壁にもたれかかる。息が上がり、目の端に涙が溜まっていた。
ローランの顔が真っ直ぐに見られず、俯く。
そんなリアーヌを囲って閉じ込めるよう、ローランは両手を壁に付き、耳元で囁いた。
「俺は君に対しても怒っている」
「うん」
こめかみに口づけられる。
「こんな雑魚に捕まって油断しすぎだ」
「うん」
正直なところ、学園の寮は絶対に安全だという油断があったのは事実なので素直に頷くと、今度は頬に唇を寄せられた。
「今の君は女性で、ただ命だけが危険なわけじゃない」
「うん」
ローランの手が、リアーヌの頬にそっと触れる。壊れ物に触れるかのような手付きだった。
「君は一歩も外に出るべきじゃない」
「無茶言うな……」
とんでもないことを言い出したローランをたしなめるため彼を見上げたリアーヌは、はっと口を閉ざした。
ローランの宝石のような碧い瞳から、ぽろぽろと涙が溢れていたからだ。
(こんな泣き方、ある?)
声が震えているわけでもなく、ただただ、瞳から涙が溢れているのだ。
号泣される以上に胸を衝かれ、もう、何も言えなかった。少しでもローランを安心させてあげないと、という一心で、
「心配かけて、ごめんなさい」
と素直に謝った。
「だから……泣かないで」
「……泣かないで?」
そうおうむ返しに繰り返し、ローランは不思議そうな顔をして、手で目元に触れた。そして涙の雫に触れ、驚いたように目を見開く。
……今まで自分が涙を流していたことに気付いていなかったのだろう。
手で涙を拭おうとする動きを、リアーヌが制した。血で濡れた手で擦ると、顔が赤く染まってしまう。
「私は大丈夫だったから。……ローランが助けてくれたおかげですよ」
リアーヌは手を伸ばし、ローランの涙で濡れた頬に触れる。
一瞬、ローランの体がびくっと震えたが、リアーヌが涙を拭うと、大人しく身を委ねていた。
「帰ろうか」
「……ああ」
⭐︎
ーー。
ーーーーー。
(……わぁ)
廃屋の外に出ると、まず折り重なった賊の凄惨な死体が視界に入った。
野盗が一体何人いたのか、一見では判別できない、そんな有様でーーリアーヌは見なかったことにした。
代わりに空を見上げる。月の位置から推測すると、まだ夜も更けたばかりで、連れ去られてから大した時間は経っていないようだった。
「ここって、どの辺?」
「それは……」
ローランが言い淀む。この期に及んで、位置探索魔法をリアーヌにかけてることを隠そうとしているのだろう。
リアーヌは、指輪を嵌めた手をローランの顔の前で振ってみせた。
「もう分かってるから。教えて」
ローランは観念したらしく、術式を編む。空中に地図が浮かび上がり、その中の一点を指さした。
「この辺りだ」
指された場所は、王都から随分離れているが、リアーヌにとっては馴染みのある土地だった。




