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そこに立っているは白騎士といった綺麗な代物ではなく、まごう事なき死神だった。
その時になって、ようやくドミニクは自分が置かれた立場を察したらしい。頬を強張らせ、一歩後ずさる。
「ま、待て……っ」
制止する声を無視し、ローランは一歩踏み込む。
「そうですねーー兄上は愛人か何かの館にお忍びで向かう途中、これ見よがしに身につけていた宝石類に目をつけられ、野盗に襲われた。兄上も騎士の端くれ。何とか応戦し、野盗を切り伏せたが自身も致命傷を負い、敢えなく絶命した。……単純明快な筋書きだ」
さらに一歩、ローランがドミニクと距離を詰める。静かな殺気が辺りの空気を満たす。
「ひ……っ」
このままだとローランは、躊躇なくドミニクを殺すだろう。それは……まずい。
「ローラン」
声をかけると、
「綺麗事は聞きたくないんだが」
と冷たく一蹴された。しかしリアーヌは構わずに言葉を続けた。
「ドミニクを殺すのは、困る」
「……」
ローランの動きは止まらない。リアーヌの言葉を無視するつもりだろう。しかし、思い止まってもらわないと、本当に「困る」のだ。
「ドミニクはシャルトル家の長男だ。そのドミニクが死んだらどうなる? 晴れて貴方がシャルトル家の嫡男になる。……今でさえドミニクを廃嫡して貴方をという動きがあるのに……。貴方がどうしてもシャルトル家を継ぎたいと言うのなら止めないけどーーそうじゃないでしょう?」
リアーヌは「人を殺めてはならない」という道徳心から彼の行動を止めているわけではない。ただ、ローランの今後を考え、彼が望まない道を歩まないように、止めたのである。
そんなリアーヌの想いを感じ取ったのだろう。ローランが一つ、溜め息をついた。
「……君の冷静さが、時に腹立たしいな」
ローランは吐き出すようにそう言うと、怯えて腰を抜かしているドミニクの頭上で、何か詠唱した。
すごく禍々しい魔力の渦が発生しーードミニクの体に吸収されていった。
「兄上に禁声の呪法をかけました」
淡々とした熱の篭らない声。家族に対する温度ではない。
「このことを他に話そうとすると、四肢が裂け、臓腑が灼熱で溶ける呪法です。発動すると大の大人でものたうち回って泣き叫ぶらしいですよ」
想像するだけで、なかなかに凄惨な魔法……呪法だ。白騎士とか呼ばれている人間が使って良い類のものではない。
「信じるか信じないかは兄上の自由ですが、兄上がご自分の命を粗末にしない方だと祈っていますよ」
ローランは無表情にそう告げて、突き付けていた剣を下ろす。そして顎で出口を指し示すと、ドミニクは四つん這いで飛び出し、廃屋から逃げ出したのだった。
下劣な男が退場するとともに、静寂が訪れる。
ローランは血に濡れた剣を懐紙で拭き取り、鞘に収めながら、口を開いた。
「リアーヌ」
静かな声だった。その静けさは冷たさであり、リアーヌを見る目も凍えるほどに冷えていた。
(怒ってるなぁ……)
ローランはリアーヌを女性であると認識しているが、だからといって弱くて良いとは考えていない節がある。
こんな雑魚みたいな男たちに簡単に攫われたリアーヌの弱さが、不甲斐ないのだろう。
近づいてくるローランの全身は、殺気のようなオーラを纏っている。
(殴られる……?)
と身構えたが、迷惑をかけたことは事実だ。一発ぐらいは殴られてやるべきだろう。
さあ、どこからでも好きなように殴るがいい。そう覚悟して、衝撃に耐えるべく歯を食いしばり、ぎゅっと目を瞑った。
両腕を掴まれ、すこし乱暴に立ち上がらされ……腰に手が回る。
ん? と思う間もなく唇が塞がれた。




