28-5
その場所はリアーヌの故郷、スヴェン領である。
(これはーーローランは高速騎獣を使ったんだな)
騎獣とは魔法を帯びた空を飛ぶ生物で、人間を運搬させるために飼い慣らされたものを指す。
その中でも高速騎獣は、小さな転移魔法を繰り返しながら移動するため、馬の何十倍もの速さで移動できる。現に、王都からここまで、馬を乗り継いで移動すると1ヶ月、通常の騎獣だと半月かかる距離を一日で移動してしまう。
その分、費用も高額だけれども。
(まあ、領主は2、3匹飼っているものだけど)
ちなみに、魔力を注げばさらに早く移動できるが、乗り手の負担は大きい。しかしローランはリアーヌの元に一刻でも早く駆けつけるため、かなりの魔力を注いだことだろう。
「あー、それだと私の屋敷も割と近いから、近くの村で騎獣を借りて、屋敷に寄っていきましょう」
この距離だと、通常の騎獣でも一時間もかからず辿り着くだろう。
「リアーヌの実家?」
「そう」
あまり気乗りしない様子のローランは、
「俺はこんな格好なんだが」
と自分の服装を指差した。
……何でもない顔をして歩いているので、血まみれの格好も気にしていないのかと思っていた。
「今、ここを通りがかった人が貴方の姿を見たら、腰を抜かすでしょうね」
水も滴るいい男とは言うけれど、血塗れの男となれば、いくら顔が良くても、突然出くわせば恐怖しか感じないだろう。
しかし、ローランがそんなことを気にするのが意外だと思っていると。
「………今、俺もそんなことを気にするんだな、とか思っただろう」
「何故分かる」
「君は俺を誤解している」
ローランは「心外だ」という表情をして、続けた。
「俺は表面を取り繕うことくらいは知っている」
「そうですね」
そうでなければ、清廉潔白の白騎士なんて呼ばれてはいないだろう。彼の優等生の仮面は、概ね完璧だ。
「大事な一人娘が、血まみれの男を突然連れてきたら、親はどう思うだろうと想像するくらいの常識も持ち合わせている」
「うん」
ローランは苦悩するように眉を寄せた。
「君のご両親からの第一印象が最悪だと困る。本来なら選りすぐった手土産の一つでも持って……」
「恋人の親に結婚の許しを乞いに行く彼氏かな?」
思わず突っ込み、すぐに、
「心配する必要はありませんよ」
と言ってリアーヌは、思いのほか第一印象について心配しているローランを安心させるよう、笑いかけた。
「貴方は私を助けてくれた人だから。貴方に感謝することはあっても、ちゃんと説明すれば怯えたりなんかしない」
まあ、最初はびっくりするだろうけれど、と付け加え、先に歩みを進め始めたところで、
「リアーヌ」
と呼び止められた。
「うん?」
足を止めて振り返ると、ローランは真っ直ぐに自分を見つめていた。
「俺はここから君の館までの道のりを知らない」
「そうでしょうね」
知っていたら、それはそれで怖い。
「迷うといけないから、手を繋いでくれないか」
「…………」
貴方、私に位置探索魔法をかけてるじゃないですか。リアーヌはそう思ったが、言葉にすることは控えた。
今のローランは、どこか情緒不安定で、迷子ようだった。
「仕方ないなぁ」
リアーヌがローランの手を取ると、ローランは安堵したように息を吐くと、そのまま強く握り返してきた。
ーーもちろん、家まで歩いて行ける距離ではなく、騎獣を借りるまでの間である。
実家に立ち寄ると両親は、突然帰宅した娘に驚くと同時に、その傍にいる血まみれの男の姿に硬直したのだった。
実を言いますとーー。
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⭐︎明日23日は更新をお休みし、明後日24日に次話を更新します⭐︎




