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死に戻ったら前世で私を殺した宿敵が溺愛してきます  作者: しののめ


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4-2

 ローランは佩刀している剣を鞘から抜きながら、近付いてくる。


「アンリ……まだ生きていたのか」

「死んでたまるか、クソが」


 軽口の応酬をしつつも冷静に判断する。この男を振り切ってシリル王子の元へ駆け付けるだけの余裕はない。……既に王子に今生の別れの言葉も述べていた。


 それでもアンリは姿勢を正し、ローランと向き合う。どんな時でも、この男の前で無様な姿は見せたくなかった。


「まあでも、いつか、こんな日が来るとは思っていたな」


 言いながら、力を振り絞って刀を構える。そんなアンリを、ローランは感情の読めない表情で見つめていた。


「退けば命だけは助ける、と言っても無理なんだろうな」

「当然だ」


 自分はシリル王子に忠誠を誓う騎士だ。主の危機に、自分の命惜しさに怖気付いて退くなど、あり得ない。


「お前のことは、ここで止めてみせるさ」

「君にできるかな」


 軽口を叩き合って……アンリは自分から切り込んだ。

 ギィンと鉄と鉄が打ち合う金属音が響く。これは試合ではなく実戦ーーー殺し合いだ。訓練での打ち合いとは鋭さが違った。

 動くごとに、これまでの戦闘で受けた傷がじくじくと痛む。何度か打ち合っただけで息が上がった。


 しのぎを削りながら相手の様子を窺う。ローランの動きには、まだ余裕があった。


(学園の武闘大会で、こいつに勝てた試しはなかったな)


 最初こそアンリから仕掛けたが、疲労が蓄積している体では、積極的に打ち込むこともできず、防戦一方だ。しかし、重い一撃を受け止めるたびに、体力が奪われて行く。全てが後手後手だった。


(ああ、負けるな……)


 アンリは自分の力を過大評価はしていない。

 そもそも実力はローランが上で、しかも今のアンリは満身創痍だ。このままいけば、自分は負ける。ここで言う「敗北」は即ち「死」を意味する。

 恐らくローランも、アンリに力が残っていないことを冷静に分析していることだろう。


 ……静かだ、と思った。


 淡い月の光が窓から差し込んでいる。

 剣戟の音と、自分の荒い呼吸。その音しか聞こえない。


 何故だろう、そんなふうに静謐の中で死ぬのも、悪くないように思えた。


 腕が、重いーーーー。


(次は、避けられないな)


 踏み込んでくる相手の動きに反応できない。これで終わりだ。そう思った時。


 ーー何故か一瞬、ローランの剣が鈍った。

 そこに生まれた微かな、本当に僅かな隙。


 多分それは、生存本能だった。考えるより先に、体が先に動いた。


 切り裂くだけの握力が残っていないアンリは、剣に魔力を乗せる。身の内に直接作用する魔力だ。

 下方から渾身の力を振り絞って切り上げーー手応えがあった。


 魔力を乗せた攻撃であるため、外傷は少なく見た目には分かりづらいが、アンリの剣は間違いなく、ローランの腹から胸にかけてを切り裂いていた。


「く……っ……」


 ローランが呻き、よろめいた。


 ーー正直な話、斬った自分の方が驚いた。目を見開き、相手を凝視した。


 むしろ斬られたローランの方が一見、落ち着いて見える。彼は腹を手で押さえながら口を開いた。


「なあ、アンリ」


 痛みはあるだろうに、それを全く感じさせない、普段どおりの口調で呼びかけられた。応じる義理はないので返事はしない。


「この世の中は、くだらないと思わないか」


 吐き出される厭世的な言葉。


「くだらないことで争い殺し合う。生きることも死ぬことも、大して意味がない」


 ローランは大きく息を吐いた。それはまるで、安堵のため息のようだった。


「でも一人で死ぬのは寂しいから」


 ふわり、と微笑んだその顔で。


「君も一緒に死んでくれ」


 死ぬ間際とは思えないほど俊敏な動き。一歩で距離を詰められた。


(まずい……!)


 そう思った時には、すでに遅かった。

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