4-3
胸に一撃。鋭い衝撃と熱、痛み。
隠し持っていた懐剣で胸を突き刺されたのだと理解した。そして……それが致命傷になったということも。
(やっぱり俺って馬鹿だな……)
まだ事切れていない相手に、油断してしまった。
そんな自嘲の念に駆られているアンリに、ローランが場違いな笑みを浮かべた。
「ありがとな、道連れになってくれて」
至近距離で見るローランの顔は、かつてないほどに美しく……その瞳は狂気に満ちていた。
命の炎が己の体から流れ落ちていく独特の感覚。
自分がもう助からないことは確定した未来だが、せめて宿敵であるローランの側で死ぬのだけは避けたかった。
(くっ……!)
渾身の力を振り絞って相手を突き飛ばそうとする。
しかし。
「つれないな。どうせ死ぬんだから、側にいてくれ」
今にも命尽きようとしているその体のどこに、そんな力が残っているのかと思うほど強い力で抱き締められた。
それにより、密着した体の間の短剣の刃が更に深く沈み込み、抉られる激痛が走る。悲鳴を飲み込む代わりに、絶叫した。
「この、クソ野郎っ……!」
そう毒づいたのが、多分アンリの最期の言葉だった。
⭐︎
「………っ!」
リアーヌは呻きながら飛び起きた。まだ刺された場所が痛むような気がして、胸を手で押さえながら、状況を把握する。
(夢……)
なんて嫌な夢だろう。
汗で夜着がぐっしょり濡れていた。額に張り付いた髪をかきあげる。
(連続で見るなんて、最悪……)
失った水分を補充するため、ナイトテーブルにある水差しの水をグラスに注いで、一口含む。
(全部、ローランのせいだ……)
久しぶりに見たローランの実物に、全身全霊が拒絶反応を起こしているのだろう。
さて、繰り返すがリアーヌにとって白騎士ローランとは、人生をやり直したからには二度と関わり合いになりたくない人間だった。
容姿端麗、才気煥発、さらには武芸にも秀でた人当たりの良い清廉潔白な白騎士。それが前回に引き続き今回も、世間一般のローランに対する評価だが。
(みんな、騙されてる)
あの男は人の良い皮を被った腹黒だ。いや、病んでいるといった方が正しいか。
何故、リアーヌがそう思うか。それは前回、敵同士であり殺された相手だからという私情では断じてないだろう。
(出来た人間が、すっごくいい笑顔で人を抉り殺したりしないよね……)
あの死ぬ間際の凄絶な微笑みを思い出すたびに、悪寒を感じて背中がぞくぞくする。
リアーヌは断言する。あれこそが、白騎士ローランの本性だと。
あの反撃は、歯牙にも掛けていなかった人間から殺された、せめてもの腹いせだったのだろう。絶対にローランより、傷口を抉られた自分の方が痛みは大きかったはずだ。
しかし、あんな最悪な最期を迎えたアンリは、死んでも死にきれないだろう。……いや、だから、こんなことになっているのだろうか。
(騎士として死ねたから本望といえば本望だけど)
ローランに殺されなくても、常備している毒薬で自決して果てようとは思っていた。弱った状態で捕虜になどされれば、待つのは人間の尊厳を奪う生き地獄だ。それでも。
(アンリとローランが折り重なって死んでいたとか、何て言われたかも分からないし!)
アンリとローランは犬猿の仲だったが、はたから見ると見た目の相性は抜群で、デキているだのいないだの、よく分からない噂の種にされたものだ。
「はぁ」
リアーヌは一つため息を落とし、
(着替えなきゃ)
と、汗に濡れた夜着を脱ぎながら、壁にかけた鏡に映る自分の姿を見る。
闇を映したかのような長い黒髪。憂いを帯びた瞳。人から美しいと誉めそやされる容姿の少女が、こちらを見つめ返していた。夢見が悪かったため、顔色が悪い。
十五歳の少女の体。普段は全く違和感を感じないが、夢を見た後は一瞬、自分の存在を見失うことがある。
(私はリアーヌ。もう、アンリじゃない。ローランのことだって……もう、心配いらない)
両手で軽く頬を叩いて、自分に言い聞かせる。編入初日の様子を見れば、彼が自分に全く興味を持たなかったのは明らかなのだから。
導入部分が終わりましたが、みなさま、TS男女はいかがでしたか?
TS男女を求めていらした方にも、馴染みはないけれど、ちょっと触れてみようかな、と思われた方にも、少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです!
TS男女が好きな方が、少しでも増えますように……!




