5 ファーストコンタクト
リアーヌは途方に暮れていた。
誠に恥ずかしいことだが。
(場所が分からない……)
教育機関経営に興味があるので、参考資料を探したいとコルトーに相談すると、
「その資料は、第五資料室に行った方がいいんじゃないか? ほい、これ鍵な」
と無造作に鍵を渡された。
フィリウス王立学園は広大な敷地を持ち、半都市化した施設だ。
以前の人生では、基本的に教室と学習室、訓練場を往復するだけだったので、それ以外の施設の位置関係に関する記憶が曖昧だ。
ーーというか、前回についてはローランに対する恨みの記憶がやたらと鮮明すぎるだけで、他の記憶は割と曖昧だ。
(仕方ない)
もう一度コルトーに場所を聞きに行こうかと踵を返そうとしたところで。
「セネヴィルさん、こんなところでどうしたの?」
リアーヌ的、話しかけてほしくない第二位の男が、愛想良く話しかけて来た。
「フォートリエ様」
柔らかな茶色の髪をした彼の名はレノー・フォートリエ。数人いる大臣の息子でーーローランの友人だ。
前回も学生時代から騎士時代まで付き合いがあったので、人物像は概ね把握している。
第一王子派閥の第一陣営に所属し、筆頭騎士になったローランの副官でもあった。しかしアンリに対しても割と気軽に話しかけてくるような社交的で人間で、性格は悪くない。
が、問題が一つ。
(レノーがいるところには、だいたいローランがいるんだよねぇ)
果たして、予想どおりレノーの隣にはローランが並んでいた。リアーヌはローランには軽く会釈するに済ませ、レノーの問いかけに答えた。
「すみません、迷ってしまって」
深層のご令嬢らしく、そっと目を伏せてみた。
ーー正確に言うと第五資料室の場所が分からないだけで、迷ったわけではないが、リアーヌは編入生だ。迷ったと説明した方が自然だろう。
すると社交性に富んだレノーは、
「あー、ここの敷地、広いよね。どこに行きたいの? 案内してあげる」
と親切にも申し出てくれた。リアーヌが、右も左も分からないような本当の編入生であれば、本当にありがたい申し出だろう。
(しかもイケメン二人に案内してもらえるとか)
年頃の乙女ならば舞い上がってしまうところだろうが。
「あ、いえ、お気になさらず……」
リアーヌはやんわりと断りを入れる。この二人に関わりたくないのだ。しかし。
「騎士たる者、全ての者に紳士たれ」
「え?」
「俺たちは騎士を目指してるからさ。ここで迷えるお嬢さんを見捨てたら、騎士が廃るってもんだ。なぁ、ローラン」
「ああ」
急に話を振られたローランが、柔らかく微笑みかけてくる。他の誰もが騙されても、自分には分かる。すごく作り笑いでーー気持ち悪い。
(そういえば、アンリの時は、いつも嫌そうな顔をされてたな)
多分、あっちの方が素だろう。つまり今、彼が見せているのはよそ行きの顔で、リアーヌは敬遠されているのだ。良い傾向である。
一方で、申し出を固辞するのも新参者としては可愛げがないかもしれない。
(レノーもいることだし、品よく振舞っておこう)
リアーヌは微笑んだ。
「それではお願いしようかしら。第五資料室なのですが」
「だったら別館か。ちょっと分かりにくい場所にあるよね」
よし、行こう、とレノーはそう言って、案内を始めた。ーー当然ながら、ローランも連れて。
⭐︎
レノーは歩いている間、編入生のリアーヌに気を遣ってか、色々と話しかけてきた。
「もう学園には慣れた?」
という定番のものから、
「礼節の教師は厳しいから、課題は早めにね」
といった学園生活の知恵まで親切に教えてくれる。
そんなふうに、リアーヌがずっとレノーだけを視界に入れて話し続けていると、不意に彼はリアーヌの顔を覗き込み、
「もしかしてセネヴィルさんって、ローランのこと、苦手?」
と核心をついてきた。




