5-2
リアーヌは、うっと言葉に詰まりそうになる。
(それ、思ってても、直接聞かなくない??)
レノーは妙に、人の感情の機微に鋭い。の割に、デリカシーがないなと思う。
編入初日に、
「俺と気安く関わってくれるなよ、ぼけぇ!(※超意訳)」
とローランが自分に釘を刺していたことは、クラスの誰もが知っているはずだ。そしてリアーヌは、そのローランの意向に喜んで従っているだけである。
が、リアーヌは以前より良識ある大人になったのだ。上手にかわして見せてくれよう。
「まさか! とても素敵な方だと思います。ーーですが、シャルトル様は文武共に秀でた学園の貴公子ですから、私のように家柄の力だけで入学した身には眩しくて、気後れしていました」
口が曲がるような世辞を並べる。あとでしっかり口をゆすいで、洗浄しなくては。
一方で、面と向かって褒め倒されたローランは、少し居心地が悪そうに視線を彷徨わせた。
「俺はそんな、大した人間ではないよ。気楽に接してくれると嬉しい」
ちなみにリアーヌは知っている。ローランは見え透いたおべっかを使う人間を、決して信用しない。ちらとリアーヌ見る視線に嫌悪が混じった瞬間を、決して見逃さなかった。
(さあ、どんどん私を嫌いになるといい!)
さらに、畳み掛けておく。
「それに私はセネヴィル家の人間ですので……」
そっと目を伏せる。
この世界が以前より政争が激しくないが、それでもセネヴィル家とシャルトル家はライバル同士だ。馴れ合うような関係ではない。
しかし、今度はレノーが否やを唱えた。
「それ! そういうの、やめた方が良くない?」
王族の方々も、派閥解消に尽力しているんだからさ、とレノーが諭してくる。
(そういえば、以前もアンリがローランを敵視するの、よく苦言を呈されたな)
きっとこの男は、根が善良なのだろう。素晴らしいと思う。が、ローランと仲良く、など、リアーヌに限ってはあり得ないので、怯まずに続けた。
「ですが私、シャルトル家のドミニク様とか、怖くて……」
か弱く震えてみせる。
家族のこと。ローランが最も苦手としている話題である。
そう、完全無欠に見えるこの男の数少ない弱点。それは家族だ。
ちなみに、ローランについては、今世での接触を避けるために、前回に増して情報収集に努めた。そのため皮肉にも、以前よりローランの背景に詳しくなってしまっていた。
ローランがシャルトル家の次男であることは当然ながら、長男のドミニクがぼんくらであること。しかし長子相続の関係から、両親は長男を溺愛していること。シャルトル家は社交界において、ローラン以外、あまり評判が良くないこと。
(決して恵まれた家庭環境とは言えないんだよね……)
ローランは幼い頃、かなり冷遇されていたようだ。
しかし、あのとおりローランは見た目だけでも人の耳目を集める存在で、そのうえ才能も豊かだ。やがて彼の両親は、冷遇するより利用した方が良いと計算し方向性を変え、待遇も篤くなったらしい。
前の世界で彼が厭世的であったのは、この家庭環境も大きな要因だろう。
そしてローランという人間は、恐らくシャルトル家で生き抜くために「誰よりも優秀」である必要があるのだ。
「レノー。セネヴィルさんをあまり困らせるんじゃない。セネヴィルさんが俺の家を苦手とするのは、仕方がないことだろう?」
ローランとすれば、レノーの提案はおせっかいだろう。これでリアーヌの気が変わって、
「やっぱり素敵なローラン様と仲良くしたいわ。おほほ」
なんて言われた日には、面倒でしかないだろう。
まあ、なんだ。
(ローランはローランなりに頑張ればいいと思う)
自分はローランとは張り合わず、関わらず、のんびりと暮らすのだ。
「……」
なお、ローランたちに案内されている間にも、ずっと周囲からチクチクと肌を刺すような視線を感じている。
並んで歩いているだけでも、一部の過激そうな女生徒の視線が怖いので、リアーヌの選択はきっと間違っていないはずだ。




