27-4
リアーヌの意外な行動に、ローランは驚いたように目を瞠りつつも、吸い込まれるように身を寄せてきた。
そんなローランの体を、リアーヌはそっと抱きしめる。よしよし、と幼子を安心させるように背中を撫でると、ローランの緊張がほぐれていくのを感じた。
そう、これは、
「強引に迫ろうとしたけれど、相手が何だか受け入れてくれたので、毒気が抜かれて油断してしまうだろう」
作戦である。
その作戦は見事、功を成しーーリアーヌは、媚香の効果を解除する術式を発動させた。
その瞬間、ローランの体が強張ったので、彼も解呪の魔法に気付いたはずだと確信した。
(よし、解毒できた)
完璧である。
今まで勉強してきた甲斐があったと満足していると、ローランの手がリアーヌの頬を包み込んだ。
「リアーヌ」
「ん?」
「口づけたい」
「……」
リアーヌは空とぼけているローランの口を両手で押さえた。
「もう媚香は抜けてます」
そう言うと、ローランがちっと舌打ちした。品行方正な優等生にあるまじき柄の悪い行動 だ。
(こら、紳士)
しかし、あまりにがっかりした表情を見せられて、少し絆された。
(私も、どうしようもないな)
だから最後にもう一度だけ軽く抱擁し、軽く背中を二回叩いてから離れた。
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ローランは、リアーヌに抱き締められた瞬間、自分の中の全ての緊張が柔らかくほぐれていくのを感じた。
まさか、奥手で警戒心の強いリアーヌの方から抱き締めてくれるとは、思ってもいなかった。また、彼女の温もりに包まれた時、自分でも驚くほどの多幸感に満たされた。
ーー正直に言おう。
彼女を空き部屋に連れ込んだ時、何ならそろそろ既成事実を作ってもいいのではないかと、最低な考えが浮かんだ。
リアーヌは、なんだかんだ言って自分を受け入れてくれていると思うし、迫れば流されてくれるだろうと思った。
けれど、リアーヌからの柔らかな抱擁に、やはりそれは駄目だと思い直した。けれど、口づけくらいなら許されるのではないかとも思う。
その時のローランは、リアーヌに触れている安心感と媚香による影響で、やや思考力が低下していたのだろう。
うかつにもリアーヌの行動に気付くのが遅れた。
(……っ)
解毒の魔法が発動したのが分かった。自らの内から、媚香の効能が抜けていく。
解呪や解毒の魔法は、元となる魔法を解析し、解くという集中力が必要な作業だ。ローランの相手をしながら、それを成してみせたリアーヌは、やはり人並外れた能力の持ち主なのだろう。
それでも、気付かなかったふりをして口づけを求めたが、
「もう媚香は抜けています」
と当然のように、けんもほろろである。
結果、解放せざるを得なくなり、手から力を抜く。
そんな時はいつも、すぐにつれなく距離を取るのがいつものリアーヌだ。
しかし予想に反して彼女は、最後に軽くローランを抱き締めると、ぽんぽんとあやすように背中を叩いたのち、体を離した。そして、柔らかに微笑む。
思いもよらないリアーヌの抱擁に、心が掻き乱される。
どうしようもないほどに彼女に心を縛られていることを改めて自覚した。
「リアーヌ」
「ん?」
呼びかけると、無防備な顔で見上げてくる。そんな彼女の全てが愛おしい。
「俺は、君がいないと生きていけない」
何度か繰り返した言葉。
それは比喩でも誇張でもなく、事実だった。この世の全てに執着心を持たないローランにとって、リアーヌだけが、色鮮やかに映る価値ある存在だ。
「……重い!」
リアーヌは苦笑いする。そしてローランの腕を軽く叩いた。
「でもまあ、貴方より先に死なないよう、努力する」
目の前の人は、どうしてこんなにも可愛らしいのだろう。もはや意味が分からない。
「ああ、でも……」
愛しすぎてーー。
「俺が死んだ後、君が誰かのものになるのも許せないな」
「………」
今度は心底嫌そうな顔をされた。アンリが死んだ際のことを思い出したのかもしれない。そして彼女は、
「重い!!」
と、もう一度繰り返した。
「でも、心配する必要はありません。私も貴方も長生きするから」
そう言ってリアーヌは、ひらひらと手を振ったのち、空き部屋を出て行った。
一人残されたローランは、椅子に座り込んで頭を抱えた。
(ああ、もう……)
たまらない。
どうしてこんなにも彼女は自分の心をかき乱し、同時に落ち着かせるのだろう。
自分には彼女が絶対に必要だ。
だからーー。
自分から彼女を奪おうとする者、そして彼女を害する存在は、絶対に許すことはできない、と思った。
媚薬的なアイテムがあっても健全すぎるTS男女って、どう思われます?
私は好き! ……だけど、ちょっと物足りない気もしますね!
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TS男女好きさんが増えますように……!




