27-3
リアーヌは困惑していた。
まず、コルトーに質問をしているところを、ローランに邪魔されたところから始まった。
コルトーは、職員会議が云々と言いながら、そそくさと去って行ったが、断言しよう。
(絶対嘘だ)
最近のコルトーは、リアーヌが主張していた「ローラン真っ黒説」をようやく理解したらしく、ローランに対して及び腰だ。
逃げたな、としか思えなかった。
勉強の邪魔をされ、文句の一つでも言わないと気が済まない、とローランを睨みつけようとしーーリアーヌはローランの様子がおかしいことに気付いた。
険しい表情をしているが微かに顔が赤く、目も少し潤んでいるようだ。熱でもあるのかもしれない。
心配になって覗き込んで声をかけると、無言で腕を掴まれた。
「え、ちょっと、ローラン!?」
そのまま連行され、空き教室に押し込まれて今に至る。
⭐︎
腹黒ローランのことだ。何か良からぬことを企んでいるのでは? と警戒していたリアーヌだったが、腕を掴んだまま、ずっと俯いて黙り込んでいるローランの様子に、心配になってくる。
「どうしたの? 体調悪いなら、早く寮に戻ったほうがいいですよ。送ろうか? それとも医務室に行く?」
先ほどから顔を上げないローランの表情は分からないが、随分と調子が悪そうに見えた。
念のため体温を確認しておこうと、自由な方の手を伸ばしかけ。
「……媚香を嗅いだ」
ローランから放たれたその一言に、リアーヌはぴたりと動きを止めた。
「え?」
ビコウヲカイダ?
ーー媚香??
(え? もしかして媚香を嗅いだってこと??)
であれば空き部屋に二人きりというこの状況は、まずくないだろうか。リアーヌはじりっと後ずさった。ローランと距離を取る。
「な、なるほど。誰かに嗅がされたんですね。そっかぁ。色男は辛いねー。でも、媚香の効果は一時間くらいで切れるから、それまで一人でいましょう?」
ほら、手を離そう? と続けると、
「いやだ」
と即答された。しかも手首を握る手に力が加わり、逃げられそうにない。
……。
(え、これってもしかして、貞操の危機ってやつ?)
リアーヌのこめかみを冷や汗が伝う。
ローランが媚香を嗅いだのがいつ頃かにもよるが、嗅いで間もないのであれば「こと」を起こすのに十分な時間がある。
ちらりとローランを見た。熱っぽい視線が自分に注がれている。ーーまずい。
(あの本のような、あれやこれやは、学生の身にはまだ早い!)
リアーヌは知識を総動員する。
ライカの涙を媒介に魔法をぶっ放せば振り切れるだろうが、多分、この教室を吹っ飛ばしてしまう。何なら、
「空き部屋でシャルトルさんとナニをしていたんですか」
とか追求されてしまうかもしれない。
ーーナニもしていないが、ここは穏便に済ませたい。
(確か、媚薬系は毒や薬と同種の魔法だったよね)
ということは、解毒の魔法が有効なはずだ、
なお、ローランはこの状況を利用するつもりであるように見受けられる。今の行動は媚香のせいで不可抗力だったと。
そんな彼に、こっそりと解毒魔法をかけるには、油断させる必要がある。
(油断……?)
目の前の男と油断という言葉が繋がらないが、今の彼は媚香の影響下にあり、少し思考に靄がかかっている状態だと推測される。
(媚薬系の魔法には、緊張をほぐす効果もあったはず)
ならば。
「ローラン」
リアーヌは思い切った作戦に出ることにした。
「媚香は、人に触れていると落ち着くという話もありますよ」
リアーヌは自ら、ローランを迎え入れるよう大きく腕を広げた。




