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彼女がうろたえるのも当然だろう。。王立学園を規律違反で退学になるなど、不名誉この上ないことだ。
そのうえ、この娘もリアーヌと同じく、将来有望な伴侶を探すためにこの学園に入学したのであれば、その目的も果たせない。
「貴方に媚香を使われたって言ってやる」
苦し紛れの稚拙な脅しに苦笑する。
「先生方は、君と俺のどちらの言葉を信用するかな?」
演習の出来事は教師たちも共有している。女性陣に男をけしかけ休学になったオルガは、今でも問題児として監視の対象だろう。
しかもローランは、リアーヌを追いかけ回している事を隠していない。他の女性が眼中にないことは、教師の目にも明らかだろう。
自身の不利を悟ったオルガがぐっと呻いた。
「もう、いいか?」
くだらないことでリアーヌとの時間を割かれるのは我慢ならない。しかし、ふと思い立って、オルガを振り返る。
「一言だけ」
誤解は解いておかなければならなかった。
「俺の全てを満足させることができる相手は一人だけだ。そして、それは君じゃない」
愛情も欲望も、向ける相手は一人だけだ。
⭐︎
不快な気分を抱えたまま、ローランが下校しようと廊下を歩いていると、リアーヌの姿を見つけた。コルトー教師と何やら熱心に話をしている。
足を止めると、こちらに気づいたリアーヌが、
「あれ、ローラン。どうしました?」
と人の気も知らないで、のほほんと声をかけてくる。
そんな能天気なリアーヌにかける声が、我知らず低くなる。
「何故、君は先生と一緒に?」
「ん? 今日の授業で分からないところがあったから」
教師コルトーとリアーヌは家族のような関係で、二人の間に色恋の空気など皆無だ。それは重々承知している。
しかし不快なものは不快だった。
(どうして、まず俺に聞かないんだ?)
ローランも、勤勉なリアーヌの疑問にいつでも答えられるよう、最善を尽くしている。コルトー教師に頼るより、まず自分に尋ねて欲しいと思う。
一方でコルトー教師は、ローランの姿を認めると「げっ」と呟き顔を歪めたのち、
「あーそう、思い出した。職員会議! 職員会議がこれからあるから、おれはここで」
と、そそくさと二人を残して立ち去った。おれを巻き込むな、と顔に書いてあった。
質問の途中で逃げられたリアーヌは、そのきっかけとなったローランに文句でも言おうかという表情で見上げてきたがーー少し困惑したように首を傾げた。
「ローラン……何か少し顔が赤いですよ。熱でもあるんじゃない?」
ひょいと無防備に覗き込んできたリアーヌに、今まで経験したことがない身体中の血が沸騰するような感覚に駆られた。
(これは……)
ローランの目にはいつでも、リアーヌは愛しく見えているが、今日はーー艶かしく見えた。
(そんな馬鹿な)
あの、恋愛に疎く色気皆無の彼女を蠱惑的に感じるなど、何かおかしい。
しかし、自分より華奢な体と、少し潤んだように見える瞳、そして濡れた唇。その全てが自分を誘っているように見える。
そしてローランは、はたと気付いた。ーーそれが媚香の効果であることに。
ローランは前世から、自分との既成事実を作りたい女性によって、こういった類の薬を何度も嗅がされてきたが、一度もその効果に屈したことはなかった。
そのため媚薬系の魔法は自分には効かない。そう、信じていたがーー。
(忘れていたな……)
今まで、そんな状況になったことがないため、媚薬系のよくある効能を一つ、忘れていた。つまり「想い人に対しては効きやすい」というものだ。
ちなみに媚薬の本来の使い方は、恋人や夫婦の感情を昂らせることにある。
適量に使用することにより、安全に濃密な雰囲気を作り出すことができる。端的に言えば、夜の営みを円滑に進めるための導入剤として利用される。
ローランの本能的な部分が、彼の行動を支配する。彼は反射的にリアーヌの腕を掴み、歩き出していた。




