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彼は硬い表情のまま大股で部屋の中央まで進むと、リアーヌを彼らの不躾な視線から隠すよう、間に陣取った。
「母上、兄上。貴方がたが何故、ここに?」
抑えた声だが、怒りが滲み出ている。
母親はローランの殺気に近い迫力に圧倒され、たじろいでいるが、ドミニクは兄としての矜持があるのか、きっと憎々しげにローランを睨みつけている。
しかしローランには、何の影響も与えなかった。
「学費を一切、家から支払っていただかない代わりに、私の学園生活に介入はしないようにと約束していただいたはずですが?」
そう非難するローランに、ドミニクが鼻を鳴らす。
「お前に会いに来たんじゃない。セネヴィル家の娘に会いに来たんだ」
しかし、その言葉をローランは一刀両断した。
「私の名を使って呼び出したと聞きましたが?」
推測するに「ローランがお世話になっているリアーヌに、家族としてお礼をしたい」というような理由を使ったと思われる。
世間は、シャルトル家のローランに対する仕打ちを知らない。そのため、事務員は彼らが申し出た理由を鵜呑みにしたのだろう。
「くだらない理由で、私の級友を煩わせないでくださいませんか」
その場が凍りつくような視線で家族を一瞥したローランは、
「失礼します」
とそう言うと、リアーヌの腕を取り、部屋を出たのだった。背後から追いかけてくる「おい、ローラン! 待て!!」というドミニクの喚き声を完全に無視して。
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リアーヌは、ほとんど引っ張られるようになりながら、ローランに着いて行く。一体どこまで行くのだろうか。相変わらず冷気を纏っているローランに声をかけた。
「ローラン。ちょっと速い」
そう訴えると、今度は急に立ち止まる。勢い余ってローランの背中にぶつかった。ちょっと鼻が痛かったので抗議しようと思ったが、軽口を言えるような空気ではない。
リアーヌは軽く息をつくと、ローランの正面に回り込み、その瞳を覗き込んだ。
「私、別にちゃんと対処できますよ?」
恐らく彼らは、リアーヌとローランの仲を探りにきたのだろう。なので助けに来ると、逆効果ではないだろうか。
しかしローランは、苦悩を刻んだ表情で答えた。
「君の問題対処能力を疑ってはいない。だが、兄は女好きだ。……どんな下衆な目で君を見るのかと思うと、どうしても許せなかった」
リアーヌの方は、ああいう下品な視線にも慣れているので、あまり気にならないが、ローランは、そうではないらしい。
「君は残念ながら、顔がいい」
「何、その残念ながらって」
まるで欠点のような言われようが不本意だ。
「学生時代のアンリのように、もっさりしていてくれたら、こんな心配をしなくて良かったんだが」
「もっさりって言うな」
あの頃は勉強と鍛錬一筋、打倒ローランだけで生きていた。色恋沙汰は余計なものとして、自分の人生から除外していた。しかし、今は違う。
「仕方ないでしょ。私はここに勉強しに来たんだけど、もう一つは婿を探しに来たのもあったんだから」
「……は?」
ローランが珍しく間の抜けた声を上げた。
「私は領主の一人娘で後継ぎですよ? 適切な伴侶を探す必要、あるよね?」
「……」
「フィリウス王立学園は優秀な人材の宝庫ですよ。探さない手、ないよね?」
「………」
ローランはリアーヌの両肩に手を置き、真面目くさった表情で言った。
「せっかく最高学府に通っているんだ。色恋にうつつを抜かさず、学業に身を入れた方がいいと思うな」
「……ええ、ローランがそう言う?」
どの口が言っているんだろうと思いつつ、こうしてローランが目を光らせている限り、婿は探せそうにないな、と思ったリアーヌだった。
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