裏話6-2
「お初にお目にかかります、シリル王子。私はシャルトル家次男のローランと申します」
貴人に対する最上級の礼をとる。すると相手は困ったような顔で苦笑いした。
「僕、堅苦しいのは苦手なんだよね。もっと楽にしてて」
そう言ったシリル王子は、彼のために椅子を引こうとするローランを制し、
「ずっと、貴方に会ってみたかったんだよね。やっと会えて、嬉しいよ」
と切り出した。
ずっと。やっと。
それらの言葉に、強い含みを感じーー察した。つまり、彼も「こちら側」の人間である、と。
ローランがそれを理解したことを確認したシリル王子は、満足げに頷いた。
「僕はね、貴方なら感じられると思うけれど、魔力の塊のような存在なんだ」
そう言った次の瞬間に、彼は自分の魔力を室内に充満させた。
普通の人間なら、この密度の濃い魔力に当てられ失神するところだろう。
しかしローランにもーー恐らくリアーヌもそうだろうがーー尋常でない魔力と対魔能力が備わっている。驚きはしたが、恐れ慄くまではない。
同時に何故、これだけの力を持つ人間が易々と殺されたのか。純粋な疑問を抱いていると、察したシリル王子が苦笑した。
「最初はね、魔力が内にこもって、外に出せなかったんだ。そのせいで、魔法が使えないのに体に魔力が溜まりすぎて蝕まれるーー寝込んでばかりの人生だった」
つまらないよね、とぼやいたシリル王子に、ローランは疑問を投げかけた。
「貴方が、この現象を発生させたのですか?」
「まさか」
シリル王子は即答した。
「ただ、僕だけならまだしも、その場には他にも膨大な魔力を持つ存在が二人いて、その三人がほぼ同時に死んでしまったりしたら、魔力が暴走して世界が分たれてしまう、なんてことがあるかもしれないね」
「世界が分たれる? 巻き戻る、ではなくて?」
自分の認識と異なる見解に、もっと詳しく聞きたいと思い問い返したが、シリル王子は軽く首を横に振った。
「ただの可能性の話だよーー戯言だと思って聞き流して」
それ以上は踏み込んでくれるな、という強い意志を感じた。問いを重ねても無駄だろうと判断したローランは、話題を切り替えた。
「リアーヌには?」
彼女が知っている様子はなかったが、念の為に聞いておく。
「何も。変に気を遣われて距離を置かれたりしたら、寂しいでしょ。それに……必要ないから」
そして、くすりと微笑んだ。
「僕のことは、気まぐれで楽しい主君と思っていて欲しいからね」
シリル王子の、リアーヌに対する深い愛情が伝わってくる。その中に恋情はないように見えたため、ローランは内心、ほっと胸を撫で下ろした。
この、一筋縄ではいかなさそうな王子を敵に回したくはない。
「貴方の人となりを、再確認しておきたくてね」
向こうも、ローランがリアーヌの側に置いて問題ない人間か、探りにきたというところだろう。
「僕はね、こういう立場だから誰とも結婚するつもりもないし、子を成すつもりもない。でも、まあ、彼女には幸せになって欲しいんだよね」
だけど、と彼は続けた。
「ローラン。リアーヌはね、とても可愛い女の子なんだ。今はね、誰もがそういう認識をしている」
それについては、ローランも強く実感しているところだ。
いくらリアーヌが中性的で女性からの人気の方が高いとはいえ、やはり多数の男性からも好意を向けられていることを知っている。ーー不埒な視線を受けていることも。
「リアーヌを良からぬ目で見る輩もいるからね。……気を付けて」
「ーー肝に銘じておきます」
⭐︎
シリル王子は来た時と同じく、転移の術で帰って行った。
外に出ると、リアーヌがうろうろしていた。
心配で様子を見に来ていたのだろうが、通行人から不審の視線を浴びている。このまま彼女が不審者として通報されてはいけないので、
「リアーヌ」
と声をかけ近づこうとすると、彼女はびくっと体を震わせ、飛び退って距離を取った。
(すごい距離を飛んだな)
相変わらず不自然すぎる距離を保ちながら、ローランは彼女に声をかけた。
「君の主はーー君をとても大切に思っているんだな」
「自慢の主です」
リアーヌが胸を張る。そこにあるのが純粋な尊敬の念と忠義であることに安堵する。
シリル王子は、自分の異質性を親しい人間ーーカミーユ王子やリアーヌーーに露見しないよう、腐心しているように感じた。そして今のところそれは成功してるようだ。
ーーそれはそうとして。
(そろそろ慣れてくれてもいいんじゃないか?)
通行人が、離れた位置で会話を交わしているローランたちを不思議そうな顔で眺めている。
このままだと自分まで不審者扱いされてしまうので、そろそろどうにかしないといけないな、と思ったローランだった。




