25 恋愛を学びたい(元)黒騎士さん
(このままではいけない)
ローランとのあれこれを経て、リアーヌは思った。どう考えても自分は防戦一方で、反攻の手立てがない。
しかし、考えすぎると脳みそが破裂しそうだ。そもそも一人で悶々と考えて、どうにかなる問題でもない気がする。
そういうわけでリアーヌは、休日にマリアンヌとユミナを誘って、城下町へ買い物に出かけることにした。
⭐︎
親しい女友達とのお出かけは、ローランとのそれとは違って妙な緊張感もなく、
(はぁー、癒される)
というものである。
しかし、今日はただ息抜きだけをしにきた訳ではなく、リアーヌには密かな目的があった。
文房具を新調し、
「この後、どうなさいます? お茶でもしましょうか」
と尋ねてきたマリアンヌに、リアーヌは思い切って切り出した。
「本屋に寄りたいのですが」
そう。リアーヌは今更ながら悟ったのだ。
(私は圧倒的に、自由恋愛に対する知識が足りない!)
だから、ちょっとローランに迫られただけで、わたわたしてしまうのだ。そう、訓練だ。剣術と同じように、恋愛にも鍛錬が必要なのだ。
「あ、私も行きたいです」
ユミナも賛同してくれたので、お茶をする前に本屋に立ち寄ることになった。
⭐︎
城下町で一番品揃えが豊富な二階建ての本屋は、普段からよく参考書を買いに訪れる場所だ。いつものリアーヌならば、専門図書が並ぶ二階へ一直線に向かうのだが、今日の目的は違う。
一階の一般図書。そこには大衆に娯楽を提供する小説が集まっている。そこに、リアーヌが目当てとするジャンルの本があるはずだが。
「……」
膨大な量の書籍に、リアーヌは呆然と立ちすくむ。
(どれがいいんだろう……)
全く興味がない分野なので、何を選べば良いのか、分からない。ので、恥を忍んで聞いてみた。
「すみません、実はちょっと今、恋愛小説を読みたい気分で……何かお勧めはありますか?」
「まあ!」
マリアンヌは何か察したように微笑み、ユミナが嬉しそうに口に手を当てた。
「では僭越ながら私が」
これは学園の文芸同好会に所属しているユミナの、最も得意とする分野だろう。彼女は張り切った様子でリアーヌを小説が並ぶ区画に案内すると、平積みにしてあった本を手に取った。
「これは今、女性の間で大人気の恋愛小説なのですよ」
彼女はそう言いながらリアーヌに手渡す。題名は「もう一度、あなたと」というものだ。
「ちょっと大人な表現もあるんですけど、切なくてきゅんとして、とてもお勧めなんです!」
「そ、そうなのですね。では、これにします」
いつも控えめなユミナの勢いに気圧されながら、リアーヌは会計に向かったのだった。
⭐︎
その後、お茶をして自室に戻ったリアーヌは早速、ユミナお勧めの本を机の上に置いた。
(泣く子も黙る第二陣営筆頭騎士だった私が、恋愛小説を読む日が来るとは……)
世の中、何があるか分からない。
ちなみに物語を読みたいわけではなく、恋の作法を知りたかっただけのリアーヌは、内容をあらかじめ聞いておいた。
かつて姫と騎士として身分違いの許されざる恋に落ちた二人が、政変によって命を落とし、生まれ変わる。そして新しい人生で二人は、姫と王子として恋を成就させるという物語らしい。
リアーヌは、ぱらぱらとページをめくる。
(うーん)
やはり、どうにも気分が乗らない。
正直なところ歴史小説なら楽しんで読むことができるが、恋愛小説は得意ではない。ざっと流し読みしていたが、リアーヌはあるページでぴたりと手を止めた。




