24 恋愛初心者
「リアーヌ……」
目の前の男が、切なげな瞳でリアーヌを見つめている。何故かリアーヌはローランと二人で、寝台の縁に並んで腰掛けていた。
ローランの手が伸びてきて、リアーヌの頬にそっと触れる。
「愛してる」
とろけるような眼差しで見つめてくるローランは、そう告げながら、ぐぐっと前のめりになってくる。どんどんローランの顔が近づいてきて、リアーヌはのけぞった。
「あ、ちょっと……」
手で胸を押し返すが、あまり効いていない。
ゆっくりと体がのしかかってきて、首筋に熱い吐息がかかる。
「リアーヌ……」
欲情を帯びて掠れた声。ぞくりとするほど艶めいていて、肌が粟立った。
「待った! 私たちはまだ学生ですよ!! こういうことは、もっと大人になってから……そう、順を追って! 順を追うんです!!」
と叫んだところで。
ーーー落ちた。寝台から。
「ゆ、夢……」
落下の衝撃で目が覚めたリアーヌは、はあはあと荒い息を繰り返す。
何て破廉恥な夢だろう。
しかも、自分の言動もおかしかった。もっと大人になってからとはどういうことだ。
(大人になったら「いい」って言ってるようなものじゃない?)
おかしい。おかしすぎる。
さらに、よくよく振り返ると、自分たちはとても「順を追っている」ような気がする。宿敵→和解→友達→お出かけ、そしてーー。
(違う、ちがーーう!)
リアーヌはぶんぶんと頭を激しく振った。
だいたい、全部ローランのせいだ。リアーヌは振りすぎて痛くなった額を押さえる。
ーーというか今更だが。
(ローランって、まさか私のことが好き……?)
特別だとは言っていたが、人生を繰り返している同じ立場の同士、共感を抱いているのだとは思っていたが、まだ「好きだ」とは直接言われてはいない。
言われてしまったら、決定的に何かが変わってしまうような気がする。
(顔、合わせづらい……)
ローランのことを考えると頭が混乱して、体が熱を持ってくる。事態がリアーヌの許容範囲を超えていた。
「あ゛ーーーっ! 考えるな私!」
リアーヌはそう叫びながら毛布を頭まで被ったが、安眠は得られそうにもなかった。
⭐︎
翌日。
元・騎士にあるまじきことだがーーリアーヌは、ローランを避けた。いわゆる敵前逃亡である。
朝、待ち伏せしてくる彼を撒くのは一苦労だが、リアーヌもかつては筆頭の騎士だったのだ。並の人間に、逃げるリアーヌを捕えることなどできない。
が。
ローランは当然、並の人間ではなかった。
一人で歩いていると、突然目の前で、ダンっと音がしてーー足が伸びてきた。進行方向を妨害するように。
リアーヌは冷や汗を流した。
(ちょ……壁、ひび入ったんだけど!?)
涼やかな顔をしているし、むきむきでもないにもかかわらず、昔から彼は圧倒的なパワー型の騎士だった。
(しかも気配、全くなかったとか、どういうこと!?)
暗殺者でも、ここまで気配は消せないだろう。
しかも、足で通せんぼなど、表面上は紳士であるローランにあるまじき、チンピラのような行動だ。
(私がアンリだった頃は、よくしてたけど)
アンリは女っぽい顔立ちで舐められがちだったので、敢えて粗野な振る舞いをする必要がある時もあったのだ。
「君ともあろうものが、どうして逃げるんだ」
ローランの目は完全に据わっていた。
「べ、別に逃げてなんか……っていうか足! 行儀悪いからやめて」
リアーヌが足を軽くぺしぺし叩くと、ローランは嫌味なくらい長い足を収めて、こちらに向き直った。




