裏話5 白騎士の黒い企みごと
リアーヌを抱き上げ、コルトー教師の研究室を出たローランは、往生際悪く暴れる彼女の体をがっちり拘束しながら、ふと今日と同じくコルトー教師の研究室で「リアーヌがアンリである」と知った後のことを思い返した。
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コルトー教師の研究室で盗み聞きをした日から、ローランは注意深くリアーヌの様子を観察した結果、彼女の随所にアンリの面影があることに改めて気付いた。
少し癖のある字をはじめとして、髪をかき上げる仕草や人前で話す時の速度や呼吸。
そして何より、普通の少女にしては動きに隙がなさすぎる。
こうしてみると、
(何故、気付かなかったのだろう……)
と不思議でならない。
アンリは社交的ではないという思い込みが、そもそもの間違いだ。学生時代のアンリは確かに社交性に欠けていたが、騎士になってからの彼は、同じ第二陣営の者たちとうまくやっていた。
……思い込みというものは恐ろしい。それもこれも、彼女が最初に自分に微笑みかけたりしたせいだ。
しかし、分からないこともあった。彼女が、ローランと同じように前身を覚えているかどうか、ということだ。
覚えていなければ、彼女にとって自分は編入先の同級生、つまり本当に赤の他人でしかない。
が、リアーヌから、これ以上近付くなと牽制されることで、理解した。
ーーリアーヌは自分と同じだと。
そうでなければ、あれほど自分から距離を取りたがるのは不自然だ。
試験の点数をわざと低くした理由も知れるというものだ。アンリとの共通点を排除するためだ。それほどローランに注目されたくなかったのだろう。
そもそも彼女にとって、
(俺は自分を殺した相手だしな)
警戒されるのも仕方ない。
そんな彼女は、
「シャルトル様は、とても素敵な殿方です。この学園で初めてお会いして、こんなに素敵な方がいるなんてと見惚れてしまいました」
と思ってもいないだろう美辞麗句を重ねてくるが、目が本音を語っていた。お前と関わるのは面倒臭いのだ、と。
牽制され理不尽に思った。
自分はリアーヌに構いたい。
しかし、心のどこかで「彼女にこれ以上、苦手意識を持たれたくない」という気持ちも湧いた。
だから、一旦は彼女の要求を受け入れるふりをした。学生時代はまだ二年以上ある。ゆっくりと自分が人畜無害であることを理解してもらえば良いと思った。
しかし、そんな余裕も長くは続かなかった。
自分にはよそよそしいにもかかわらず、他の生徒とは親しくしている姿を見かけるにつれ、不満に似た気持ちが育っていく。
特に、他の男子生徒と親しげに話している姿を見ると胸がざわついた。
極め付けは、二回目の試験の結果が学内掲示板に張り出された日のことだ。
背後が妙にざわついているので、ふとそちらを見やる。するとリアーヌが、特別クラスの男子生徒に手を握られていた。
(……)
それだけではない。肩まで抱かれていた。リアーヌは困ったような顔をしていたものの、振り払うことがなかった。
(何故、俺は駄目なのに、その男ならいいんだ?)
気安くリアーヌの肩を抱く男にも、それを許すリアーヌにも苛立ちが募った。
(だいたいアンリは、昔から勝手すぎる)
学生時代はウザいほど絡んできたくせに、騎士になった途端、手のひらを返したように「お前とは関わらない」オーラを出し、あからさまに避けられた。
ローランの感情などお構いなしに、振り回してくれるのだ。
ーー思い出すだけでも苛立ってくる。自分の感情を波立たせるのは、いつもアンリだけだった。
そこまで考え、ふと思い立った。
(俺も、好きなようにしていいんじゃないか……?)
向こうも好き勝手しているのだ。何故、彼女に言われるがまま、距離を置かなければならないのか。
折よく、もうすぐ武闘大会がある。
ローランの唇が弧を描いた。




