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そして二回目の十五才の暖1の月。
先述のとおり、リアーヌは「一般クラス」ではなく「特別クラス」に編入していた。
(何でだ……)
一般クラスへの編入は、ごく普通のことだが、特別クラスの編入生は珍しい。恐らく特別クラスだけでなく一般クラスの学生からも注目されてしまったはずだ。
つまり、初日から……悪目立ちしてしまったわけだ。
(私の深淵なる計画が台無しだ)
初っ端からローランと接してしまうことになり、前回十八歳で卒業して以来の二度目の学生生活は、リアーヌの望まない形で始まったわけだ。
リアーヌは自分の席から、窓側後方に座っているローランをこっそり盗み見る。
すらりと伸びた背筋。芸術品のように整った顔。さらさらの金の髪は太陽の光を受けて柔らかく輝いている。相変わらず、誰もが溜め息をつく美貌の持ち主だ。
もちろん、彼の存在は前情報としては知っていたし、心の準備はしてきたつもりだった。が、実際にその姿を目の当たりにすると、複雑な気分だ。
(ローランは今回のこと、何か聞いているのかな)
今回のこと、とは、セネヴィル家の人間が今「特別クラス」にいることだ。
リアーヌは三ヶ月前に、この王立学園で行われた一斉編入試験に挑み、目論見どおり見事、一般クラスに合格した。届けられた合格通知を見て、
(これでローランに煩わされない学園生活が送れる……!)
と小躍りしたものだ。
が。
一体、どこからどう情報が漏洩したのだろうか、セネヴィル家の長女が王立学園に編入するという話を聞きつけたシャルトル家当主夫妻から横槍が入った。
「由緒あるセネヴィル家のお嬢様ですもの。王立学園に入学されるのなら、白騎士ローランがいる特別クラスに入るべきではなくて?」
繰り返すが、すでにローランの完璧ぶりは人の口の端に上っているところだ。一方でセネヴィル家の引きこもっていた一人娘の話など、社交界で話題になったこともないだろう。
彼らの思惑は一つ。
(ローランの当て馬にしてやろう、ってところか)
ちなみに、今の世界ではセネヴィル家とシャルトル家の権勢には、そう差がない。セネヴィル家は以前ほど資金繰りに汲々としておらず、対するシャルトル家は没落気味だ。
シャルトル家の当主夫妻は、国王の第二夫人であり毒婦と呼ばれたアンジェラの腰巾着であったため、そのアンジェラが廃されてから急速に求心力を失っている。
そんなシャルトル家が何とか体面を保っていられる理由はただ一つ、ローランという類稀な才能を持つ息子の存在だ。
勢いを取り戻しつつあるセネヴィル家に対し、焦りを抱くシャルトル夫妻は、出来の良い息子を使ってリアーヌを……つまりセネヴィル家を貶めることを考えたのだろう。
一般クラスの学力しか持ってない学生ーーーリアーヌが、特別クラスの授業について行けるはずがない。リアーヌに落ちこぼれの烙印を押したうえ、セネヴィル家に対して、今一度格の違いを見せつけたいと思ったのだろう。
(あー、面倒臭い……)
諸手を上げて降参するので、放っておいてくれませんかね。と、心から思う。
一応、両親にも、
「私は最初に受かった一般クラスに入学したいのですが……」
と訴えてみたが、
「貴女なら大丈夫だとコルトーが言っていたわ。私もそう思うし、もし途中で本当に着いて行けなくなったら、その時に一般クラスに行ってもいいんじゃない?」
と母に言われ、リアーヌは泣く泣く特別クラスに入学することになった。
(いや、さすがにセネヴィル家の娘が落第したら駄目でしょう……)
なお、余計なことを言ったコルトーのことは、今でもちょっぴり恨んでいる。
しかし入ってしまったものは仕方ない。なるべく穏やかな学園生活を送れるよう努めるのみだ。
なので、初っ端から教壇の前で、ローランとうっかり目が合ってしまった時も、本当は蛇蝎を見たかの如く嫌な顔をして目を背けたかったが、
(落ち着け、落ち着くんだ……)
と自分に言い聞かせ、何とか堪えた。自分はローランのことを知っているが、ローランは知らないのだ。
彼とは初対面であるリアーヌが、嫌悪感剥き出しの態度を取るのは不自然だ。だからリアーヌは、上手に微笑んでみせた。
相手もにこり、と笑みを返した後、すぐに視線を外した。それは社交辞令を越えないもので、自分に全く興味はないと確信したリアーヌは、
(よしっ!)
と心の中で快哉を叫んだものだった。




