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前回は「騎士になって両親を助けるんだ!」という割と単純な考えだったため、具体的に両親が望んでいることが何か、深く考えることはなかった。
「お父様とお母様は、この領地をどのように導いていきたいとお考えですか?」
「フィリウス王国は武の国だ。だが私は『知恵』も力だと考えているんだよ」
どうやら両親は、王立学園に通わなければ高度な学問に接することができない現状を憂えたうえで、領民全てに、基礎的な学力を身につけさせる仕組みを考えているようだった。
その取り組みの一環として、母は既に教師を育てる私学を運営している。
資金を集め、そのような学校を要所要所に開校し、ゆくゆくは、この地を学術都市にしたいという夢を持っているようだった。未来を見据えた夢だと思った。
そんな両親の手助けをするためには、
(やっぱり勉強しないと駄目だな)
と思い、優秀な家庭教師を雇ってもらってコツコツ勉学に励んでいたが、三年も経つと、もどかしさを感じるようになった。リアーヌの知識量と家庭教師の知識量に大きな差がなくなったせいである。
個人の力では限界があることが、身に染みた。同時に王立学園が、いかに学びを求める人間にとって恵まれた環境であったかを思い知らされたのだった。
(王立学園、か……)
正直なところ王立学園には近づきたくない。ローランに負け続けたという悪夢しか思い浮かばないのだ。しかし。
「今からでも王立学園に行った方がいいって」
十二歳の時に一度、学園行きを勧めてきた、兄のような存在である親戚のコルトーが、再度、そう勧めてきた。
「お前は行ける環境にあるんだ。もったいねえよ」
コルトーは、王立学園で教鞭をとっており、学びに対して真摯だった。そんな彼の言葉に、胸が衝かれた。
どこか自分には驕りがあったのかもしれない、とその時はじめて感じた。アンリの時に蓄えた知識があるから、王立学園に行かなくとも十分にやっていける、と。
だが、傲慢なのかもしれない。以前とは全く目標が違うのだ。学ぶべきものも異なるので、アンリの知識だけでは到底、足りない。
(そもそも王立学園は全ての教育施設のお手本だ。その運営方法自体に学ぶべきものがあるはず)
そして、覚悟を決めた。
(やっぱり学園に通うしかない)
……ついでに、もう一つ、野望があった。
(将来有望な金持ちの男も捕まえれば、なおいいな)
リアーヌはセネヴィル家の唯一の子であるため、いずれは女領主となる。そして家を存続させるために、婿を取る必要があった。
そして婿を取るなら、共に同じ未来を目指してくれる、優秀な人物を見つけたい。
(ついでに、少しばかり持参金があれば、完璧ね)
そんな相手を手っ取り早く見つけられる場所も、全国の優秀な人材もしくは金持ちの子女が集まる王立の学び舎である王立学園しかなかった。
(問題はローランだけど……)
すでに、その存在は人の口の端に上っている。白騎士の家系シャルトル家のローラン。学業優秀、武芸にも秀で、眉目秀麗。物腰も優雅で清廉潔白な紳士。
学園を卒業すれば、騎士となり、すぐに王宮の要職に就くだろうと目されている。
今回も非の打ちどころがないローランの完璧さに腹が立つ。が。
(でも、ローラン回避の秘策が、今の私にはある!)
学園は成績によってクラス分けされている。
最上位に一クラスだけある特別クラスと、それ以外の複数ある一般クラスである。この二つは学園棟自体が違うため、一般クラスに入れば特別クラスの生徒とは接点はほとんどない。
(私は一般クラスを目指せばいいよね)
学園は二度、試験によって学生を受け入れている。一度目は十二歳。二度目は十五歳。
この十五歳の試験は編入試験と呼ばれ、完全実力主義の一度目より「家柄と寄付金」重視の要素が強い。
そのため、この編入試験に臨む者が特別クラスになることは、まずない。
自分の学力は、客観的に見ても特別クラスに入れるだけのものはあるはずだ。が、編入試験の合格点を適度に超えるくらいに調整すれば、一般クラスに配置されるだろう。
編入試験で一般クラスに入る学生はそこそこ多いため、悪目立ちもしないはずだ。
(そうすればローランとの接点もないはず)
あってもすれ違うくらいだろう。
(ふっ……完・璧!)
なんて隙のない計画だろうか。自分が怖い。
加えて学園には、身内で気心が知れているコルトーがいる。学園行きを勧めてくれた彼がいれば、不測の事態が起こることもないだろう。
ーーそう、信じていた。




