3 もう一度、ここから
さて、自分が人生を繰り返していると気付いたのは七歳の時だった。
何か特別なきっかけがあったわけでもなく、不意にアンリの記憶が飛び込んできた、という感覚だ。
最初はなかなかの混乱ぶりだった。何せ今の自分は、リアーヌという名の七歳の「少女」だったからだ。
華奢な体と艶やかな黒髪、整った顔をしたリアーヌは、会う者全てから「本当に綺麗なお嬢様ですね」とほめそやされ、自分が「女の子」であることに疑問を持ったことなどなかった。
そんないたいけな少女の脳の中に、唐突に成人男子として生きてきた記憶が蘇ったのだ。
当時、病弱だったリアーヌは混乱しすぎて、ぶっ倒れたうえ、三日三晩寝込んだ。ある種の知恵熱だったのかもしれない。
熱が下がった後も、
(何で?)
と、この奇妙な現象に対して疑問は尽きなかった。が、受け入れて生きていくしかない。
幸いなことに,前回の人生を思い出したからといって、今まで生きてきた七年の経験がなくなったわけではなかった。
むしろ、今まで生きてきたリアーヌの七年の生活習慣の方が人格の「核」であり、今の人生の中に前回の人生が、緩やかに同化しているような感覚だった。
最初こそ、自分の性別に対して混乱が生じたものの、自我は「リアーヌ」であり、今までどおり女の子として生きることが馴染んだ。
精神年齢も身体に引きずられているようで、同じ年頃の子供と話をしても、特別に幼すぎて話が合わないと感じることもなかった。
ちなみに、
(他に同じような境遇の人、いないかな?)
と自分なりに探ってみたが、同じように繰り返しの人生を送っていると思しき人物は見当たらなかった。
そんなこんなで、リアーヌは割と普通の少女として、違和感なく過ごしていた。
ただ、リアーヌは前回の人生を顧みたうえで、目立つような行動を極力控えた。
元々、幼い頃のリアーヌは病弱で、何なら生まれてすぐに魔力を暴走させて死にそうになったらしい。娘の心身の負担を気にした両親が、死んだことにして隠すようにして育てていた。
アンリの記憶が蘇ってからは、見違えるほど元気になったが、引き続き公の場には病弱であるとして極力欠席し、やむを得ず出なければならない場合でも、人の記憶に残らないような行動に徹した。
(また、ローランのライバルなんて持ち上げられたら、たまらないし)
なお、今回も第二王子とは懇意にしており、派閥としては第二陣営だ。ただし。
(なぜか、すでに王位継承権争いが終わってるんだけど……)
今回と前回との大きな違い。それはリアーヌが八歳になった時に、王位継承権争いが決着してしまったことだった。
(前回の争いの主犯だった第二夫人アンジェラが、廃されたんだよね)
つまり、かつてほど派閥争いが激化していない……いや、ほとんどない状態だった。
以前と微妙に流れが異なる世界で、自分は一体どう生きるべきか。
自分の前身であるアンリは、没落したこの家を何とか立て直し、苦境にある両親に楽をさせてやりたいという願いを持ち、騎士を目指した。
しかし、女になった自分は同じ道を歩めない。そもそも。
(生まれ直してまでローランとは張り合いたくないし)
あの男は超人だ。
勝てない勝負に拘泥し、周りが見えていなかったかつての自分は、とても未熟だったと反省している。
また前回、一人息子である自分が殉職したと聞いた両親が、どれほど悲しみに暮れたか、想像に難くない。
だから今度こそ両親を支えたいとも願う。
そしてリアーヌは決意した。
もう一度、この成長著しい日々をやり直せるというのなら、以前とは全く違う道筋を辿ろうと。
(早く領主を継いで、お父様とお母様を支えよう)
と。




