閑話4 とある教師の切実な悩み
教師コルトーにとって、リアーヌは尊敬する恩師の一人娘であり、自分にとっても妹のような存在だった。
幼い頃から、どこか大人びた雰囲気の少女は、子供の頃から才気煥発で学習意欲も高く、十二歳から入ることができる王立学園への入学を希望しているものと思っていた。そのため、
「私、家で勉強したい」
と言われた時には、非常にもったいないと思ったものだ。
幼い頃は病弱で、何かというと寝込み、社交場には顔を出していない彼女だったがーーコルトーは疑っている。幼少期は確かに病弱だったが、途中からは仮病だったのではないかと。
(訓練の時は、元気に動き回ってただろ……)
女とはいえ、騎士の名門セネヴィル家の跡取りだ。弱いことは許されない。男と同様、武術の稽古を科されていたが、生き生きと動き回っていたように思う。
しかし、それ以外の時は、
「ああ、何だか眩暈が……」
と棒読みで宣い、出ごとには参加しない。
(ただの引きこもりじゃないのか?)
しかし娘に大甘な両親が、それを許しているので仕方ない。やむを得ないと思える事情もある。
リアーヌは、誰もが息を呑んで見惚れるほどの美少女だ。変な輩に目を付けられ、妙な縁談が舞い込む煩わしさを考えれば、隠して育てるのも一つの手だろう。
(とんでもない美少女で、しかも女領主の地位が約束されているときたら、わらわら有象無象が寄ってくるだろうしな)
しかし、王都から離れたこの地で学べる範囲には限界がある。実際、リアーヌはいつも、どこか物足りなさそうにしていた。だからコルトーが改めて、
「王立学園に今からでも編入したほうがいいって」
と勧めると、
「やっぱり、そう思うよね」
とリアーヌは物憂げに答えた。
話を聞くと、どうもシャルトル家の次男が通っていることが、彼女が躊躇する最大の理由らしい。会ったこともないのに、
「絶対、何か真っ黒い本性を隠してる」
と断言する。
その時は気にする必要などないと思ったし、実際、リアーヌが入学してしばらくの間も、気にしすぎだと一笑に付したものだ。
コルトーは王立学園で教師として働いており、十二歳で入学してきたローラン・シャルトルとも接してきたが、特に問題のある生徒ではなかった。
シャルトル家の当主とその妻、そして長男はろくでもない人間だが、ローランは彼らと全く似たところがなかった。
清廉で礼儀正しく、学業は優秀で武芸にも長けている。物腰も優雅で男前。女生徒たちの熱い視線を一身に集めるローランは、コルトーから見ても優等生そのものだ。
確かに出来すぎるところが嫌味と言えないこともないが、それ以外に欠点といった欠点はなかった。
むしろ、学園に通い出したリアーヌが、ローランに心を奪われてしまうのではないかという心配の方が大きかったくらいだ。
(理想の物語の王子様像を体現しているような男だからなぁ)
なお、ローランがリアーヌに惚れるという心配は、全然、全く、これっぽっちもしていなかった。
ローランは適度に交際をしているが、常に後腐れのない相手を選んでいたし、相手も概ね女性らしい色気のあるタイプだった。一方で、美人だが、どこか中性的な雰囲気で色気のないリアーヌは、彼の好みからは外れている。
さして色気があるわけでもない、しかもセネヴィル家のリアーヌを、賢明なローランが相手にするとは思えなかった。
実際、リアーヌが編入した当初は、二人は互いに避け合っているようで、ほとんど接点はない様子だった。
(あいつの取り越し苦労だったな)
しかし今。
コルトーは、リアーヌの言い分が正しかったことを認めている。
(あいつは、やばい)




