22-2
リアーヌに手を押さえられ、動きを遮られたローランは、怪訝そうに首を傾げた。
「ん? どうした?」
「いやいや。どうした? じゃないですよ。なぜローランが買うのでしょうか?」
「どうして俺が買ったら駄目なんだ?」
心底不思議そうな顔をして逆に尋ねられた。
「いやいやいや。私は一番じゃなかったから、何かもらう理由はないし」
金額的には大きくないが、これ以上ローランから何か贈られると、借りを作ったようで落ち着かない。
しかしローランは言い募った。
「君が欲しいと思ったから、俺も欲しいと思った。だから買う。不自然じゃないだろう?」
「??」
何だろう、その理屈は。破綻しているのに、堂々としているので、うっかり正しいことのように聞こえてしまう。
しかし騙されてはいけない。
「すごく不自然だと思います」
言い切ると、ローランは苦笑した。
「今日は、俺の望みに付き合ってくれる日なんだろう?」
そんなふうに二人で押し問答をしていたところで、店主がにこにこと微笑ましげに眺めている視線に気が付いた。……もしかして恋人同士とか思われているのではないか。
(居たたまれない……)
ローランの様子を見る限り、これ以上固辞しても無駄なようだ。リアーヌは諦めた。
「お願いします」
ローランに支払いを任せていると、店主が贈り物用の可愛らしい包装紙を机に出し、
「お買い上げ、ありがとうございます。お包みすることもできますが、ここで付けていかれますか?」
と、余計な提案をしてくれた。
するとローランは「その手があったか」とでもいうように、
「そうですね、ここで付けてもらえると嬉しい」
と髪留めを手に取る。そしてリアーヌに向き直った。
(え? お前が付けるの?)
という目で見たが、ローランがにっこりと微笑む。その目が「今日は俺のお祝いだろう?」と語っている。
もはや、何がお祝いなのか分からない。
が、確かに今日はローランに付き合う日だ。彼に恥をかかせてはいけない。
観念すると、嬉々とした表情のローランが正面に立った。
髪留めを持つ指が、すっと首筋に触れる。
「……っ!」
ぞくっと肌が粟立った。
(なんか、触れ方がやらしい!)
と思っていると、ローランはくすりと笑って、リアーヌの髪を一度くしけずると、前髪が落ちないようこめかみの横に留めた。
たったそれだけの動作なのに、リアーヌはローランの手が離れると、はあはあと呼吸を荒くした。どうやら無意識に息を止めてしまっていたらしい。
大きく息を吸って心を落ち着かせていると、店主が声をかけてきた。
「素敵な彼氏ですね」
微笑ましく自分たちを見ながらはやす店主に、
「違います!」
と全力で否定した。が、店長の目には「またまた恥ずかしがっちゃって。初々しいわぁ」と書かれている。隣に立つ売り子も、キラキラした目で自分たちを見ていた。
そんな彼らの期待こもった瞳にーーリアーヌは屈した。
「いえ、ご想像にお任せします……」
一方でローランもご満悦の表情である。
「こうやって俺が贈った物を身に着けている君を見ていると、首位になった甲斐があるな」
「なんかーー私の思うお祝いとは違うような気がします……」
髪を留めてもらう際、変に体に力が入ったせいで、どっと疲労感を感じながらも突っ込まずにはいられなかった。
だいたい指輪に至っては、身に着けているのではなく、外れないだけである。
(まあ、外そうと思えば外せないことはないけど……)
外すとしつこく追求してくるローランの姿が目に浮かび、それも面倒くさいので、そのままにしているだけであった。
⭐︎
一組の客が帰ったあと、店長と売り子が顔を見合わせ、ほーっとため息をついた。
「今の人たち、すごい綺麗でしたねぇ」
二人とも歌劇の俳優も裸足で逃げ出すほどの美形で、見ているだけで眼福である。
「でも、すごく初々しかったですね」
先ほどの客が恋人同士であることに、彼女たちは疑いを持っていない。二人の距離は友人のそれよりも近かったし、また少女の右手の薬指に可憐な指輪が嵌められていたからだ。
「うんうん。髪留めつける時、女の子の方は緊張してプルプル震えてたし、男の子の方も、やっぱり手つきが緊張してたわね」
特に男性の方の壊れ物に触れるかのような慎重な手つき。相手をとても大事にしていることが伝わってきた。
それに。
「すっごいとろけるような顔をしてた」
とびきりのイケメンだったが、彼の心に少女以外の人間が入り込める余地はなさそうだと思った。
「あー、私も恋人が欲しい!」
「恋がしたい!」
そう言って二人は再び顔を見合わせ、ふふっと笑い合った。




