22 これはお出かけであってデートにあらず
試験首位のローランへのお祝いは、中央広場の噴水の前で待ち合わせとなり、あっという間に当日を迎えた。
ーーリアーヌは姿見の前でうんうん唸っていた。どんな格好をしていけばいいのか悩んでいるのである。
(めかし込んで行くべき?)
マリアンヌやユミナと出かける時などは、それなりに可愛い格好をしているし、そうすることに抵抗はないが、今回の相手はローランだ。彼はリアーヌが男だった頃を知っている。
(私がめかし込んでも、気持ち悪くない?)
何故、ローランと出かけるために、自分がこんなに悩まなければならないのか。理不尽だ。
結局、以前マリアンヌと出かけた時に着たワンピースを着ることにした。群青より薄い青い色で、裾が柔らかく揺れる意匠のものだ。
(まあ、どうせ外套羽織るし、こんなものでしょ)
少しおとなしめだが、リアーヌがあまり気合を入れてお洒落をすると、人の目を集めてしまうので、このくらいが良いということにしよう。
⭐︎
中央広場へ辿り着くと、ローランは既に待ち合わせ場所に到着していた。休憩用の長椅子に座り、何か本を読んでいる。投げ出された足が嫌味なほど長い。
(くっ……私だって男の時は足は長かった!)
謎の敗北感に苛まれつつも同時に、
(……格好いいな)
と美的感覚は人並みにあるリアーヌは、客観的にそんな感想を抱いた。
制服姿と比べると、少し砕けた装いだが、そこがまた様になる。道ゆく女性たちがちらちら視線を向けている。……あまりに隙がないので、声をかけるまでには至っていないようだが。
「ローラン」
リアーヌが声をかけるとローランは視線を上げ……少し驚いたように目を見開いた。
「……何。そんなに変?」
「いや、君のことだから制服で来るとか、洒落っ気のないことをしてくる覚悟をしていた」
「私のことを何だと思っているんですかね。時と場所くらい弁えています」
……というか、休日に制服姿は逆に目立つだろう。
内心でそんな突っ込みを入れていると、ローランは相好を崩した。
「すごく似合ってる。俺のために可愛い格好をしてくれるなんて、嬉しいよ」
「いや、ローランのためじゃないから」
何のためらいもなく「可愛い」と言ってのけるローランに、気恥ずかしくなって視線を泳がせた。
「そ、そんなことより、どこか行きたいところでも?」
「いや……特にはないな」
「え?」
どこか目当ての場所があるが、男一人で入りづらい場所のため、女性の同伴者を探していたのだと思っていた。
では、一緒に出かける意味とは? と考え込んでいると、
「友人なら、特に目的もなく街をぶらつくこともあるんじゃないのか?」
「まあ、それはそうですけど……」
何だか丸め込まれた気分だが。
「今日は東通りに市が立っていて、屋台とかも出ているらしい。行ってみるか」
ローランの首位のお祝いという本日の趣旨を思い出し、リアーヌは足を踏み出したローランの隣に並んだのだった。
⭐︎
地元スヴェン領でも市は立っていたし、祭りもあった。しかし。
「やっぱり城下町は違いますね」
人出、出店の数、賑やかさ。どれを取っても規模の大きさを感じた。王都で祭りがある時などは、新人騎士だった頃は、よく警備に駆り出されたものだ。
今の人生で、王都の市を見るのは初めてだ。懐かしさに、ついきょろきょろと忙しなく辺りを見回してしまう。
正直に言えば、市に出ている商品は、店舗を構えている商品と違って品質が担保されていないものも多い。
しかし不思議と、屋台に並べられた商品は魅力的に見えてしまう。玉石混合であることが、射倖心を煽るのかもしれない。
リアーヌは何気なく、装飾品を並べている露店の前で立ち止まる。店主と売り子が愛想良く「ゆっくりご覧ください」と声をかけてくる。
(あ、これいいな)
深い藍色の髪留めに目を止めた。
髪は魔力を微量とはいえ蓄積するため、魔法を使う者は伸ばしていることが多い。
例に漏れずリアーヌも、以前はあって今はない男性の運動能力を補うために魔法を使うので、髪を伸ばしている。
(前ほど重要じゃなくなったけど)
リアーヌの右指には、魔力を貯蔵する魔道具「ライカの涙」が収まっている。
しかし、やはり保険として髪はあった方が良い。
(でも、長いと邪魔になる時もあるんだよなぁ……)
食事をする時しかり、勉強する時しかり。
出店に並ぶ装飾品だ。そう大した金額でもないので買っていこうか、とリアーヌが検討していると、隣に立つローランが手元を覗き込んできた。
「これが気になるのか?」
「髪を留めるのに良さそうだなと思って」
「そうか」
彼は頷くと、その髪留めを手に取った。そして、
「すみません、これをください」
と店主に声をかけ、何の躊躇もなく財布を出そうとするその手を、
「待った! ちょっと待った!!」
とリアーヌは慌てて止めた。




