21-2
(さて)
手紙も渡したことだ。
(シリルも喜んでくれるだろう)
弟の喜ぶ顔が浮かぶと、心がほっこりしてくる。
シリルはカミーユの五歳年下の異母弟だ。
七年前ーー当時十二歳だったカミーユは、母アンジェラの横暴な振る舞い、そして自分の非才さに悩んでいた。そんなカミーユを励まし支えてくれたのが、この聡明な弟王子だったのである。
「ただ、お前より先に生まれただけの私は、本当に王になるべき人間なのだろうか」
ふとした時にシリルと二人きりになった際、思わず漏らした本音。それを七歳の弟に愚痴った自分は、本当に追い詰められていたのだろう。
そんなカミーユの言葉を聞いたシリルは、びっくりしたように目を見開き、
「何故、そのようなことをおっしゃるのでしょう。お兄様は誰よりも王に相応しい方です」
と断言したのだった。さらに、
「僕の母のことなら心配ありません。道理の分かる方ですから」
と言うと、カミーユの手を取った。
「それよりお兄様のお母様のことです。お兄様は、あの方の側にいてはいけません。どうか、僕と共に来てくださいませんか?」
そうして連れられた先にいたのは、シリルの母であり正妃イリーナだった。なぜ彼女が、と身構えるカミーユの前で、シリルが膝を折った。
(え……?)
瞠目するカミーユに対し、シリルは八歳とは思えないほどの大人びた口調で、
「お兄様が次の王として即位されることを、心から願っております。僕は速やかに王位継承権を放棄し、お兄様の治世を支えることを誓います」
と言ってカミーユに臣下の礼を執った。その間、イリーナが口を挟むことはなかったので、これは既に母子の間で決定していたことなのだろう。
(そうか……)
この母子は暗に、横暴な実母を見限れと迫っているのだ。しかしそれは、決して利己的な考え方からではない。彼らは国のため、国民のために、それをカミーユに突きつけているのだと。
カミーユは、母の反対を押し切って正妃の養子となった。そうすることでカミーユは、長子であると同時に正妃の子となり、王位継承権第一位の正統性をより強固なものにしたのだった。
その直後、母アンジェラの王宮費用の使い込みの他に間男の存在が発覚し、正式に第二夫人の地位を廃された。
あんな毒婦でも自分の実の母だ。
悲しく思う気持ちはあるが、カミーユは帝王教育を受けた第一王子だ。大局を見据える瞳を持っている。つまり放埒に振る舞う母の処分は妥当であると考えた。
また、父親である王も、第二夫人の専横を許したかどで、王権のほとんどを剥奪されることになった。
しかし、まだ年若い自分がすぐに王としての全ての政務がこなせるはずもなく、義理の母となった正妃や宰相たちの力を借りながら、今まで何とかやってきた。
また、実の両親を失ったも同然のカミーユだったが、異母弟は思いのほか自分に懐いてくれて、
「お兄様、お兄様」
とカミーユと過ごす時間を大切にしてくれた。
また、義理の母も公平さを心掛けているようで、決してシリル王子と分け隔てをしなかった。厳しい人だったが、王としての責務を一から教えてくれた、立派で尊敬すべき人だと知った。
そんなふうに、カミーユは当初の不安など吹き飛んでしまうくらい、新しい家族と共に充実した日々を送っていたが、自分の心に余裕ができると、今度は周囲に目を向ける余裕が出てくる。
やはり、一番気になるのは、いずれ自分の騎士になる予定のローランのことだった。
彼はいつも、どこか醒めた目で世の中を眺めていた。幼いのに、全てを諦めた瞳だった。親に冷遇されて育ってきた少年だとはいえ、今はカミーユの友人として待遇は改善されてる。だから、彼がまとう厭世的な空気の理由が分からない。
そこで、
「ローランのことが心配なんだ」
と弟に相談すると、
「今、彼の心を癒すのは、無理だと思います」
と彼はやけにきっぱりと断言した。
「いや、でも以前、聞いたことがあるのだけど、ローランはアンリという少年を探しているようなんだ。もし、その子と再会できれば、友達ができて孤独じゃなくなるかと思って」
「……」
何故か弟はすごく困った顔をした。
「それは……ずっと探していても見つからなかったのでしょう? アンリという『少年』のことは僕も知りませんし、難しいのでは?」
そして軽く首を振ると、
「お兄様。ローランのことは心配しなくて大丈夫です」
と言い切った。
「彼はいずれ、運命に出逢いますよ。そこではじめて、彼は生きていて良かったと心から思うでしょう」
弟はカミーユと違って莫大な魔力の持ち主で、自分では考えも及ばない鋭敏な感覚の持ち主であるように思う。
「お前は預言者のようだね」
「ふふ、僕は何も知りませんよ」
弟は静かに目を伏せた。
「ただ、僕たちのために誰かが死ぬような、そんな争いの絶えない世界にはなってほしくないですから。そのためなら僕は、悪しき芽を先に摘み取ることも辞しません」
そう言って目を開いた時、その視線はどこか遠いところを見つめていた。そういう時の雰囲気は、とて大人びていて、どこかローランと似通っている。
「僕もお母様も、王位継承者はお兄様だと思っています。お兄様の優しい心が、今のこの国には必要なのです」
そして弟は柔らかく微笑んだ。
「僕は、お兄様を全力でお支えしますから」
カミーユは感じている。恐らくこの弟王子は自分より賢く、大局が見えている。それでも、本心から権力には興味はなく、自分を支えようとしてくれていることが分かる。
(私は、弟の信頼に応えなければ)
そして、そんなふうに思える家族を持つことができて、自分は幸せだな、と思ったのだった。
19日は密かに注目度ランキングなるものに載っていたそうです。仕様は分からないのですが、一つだけ分かること。それは、皆さまがTS男女を愛でてくださり読んでくださっているからこそだということです! いつもありがとうございます!
TS男女好きさんが増えますように……!




