閑話3-2
「あら……。何だか立ちくらみでもされたみたいですね」
「まあ……」
立ちくらみで、そこまで吹っ飛ぶか! という突っ込みはしないことにした。彼女がそう言い張るなら、そういうことにしておこう。ーー友達だから。
そう、友達という言葉は万能なのである。
その後、リアーヌはすぐにチンピラを振り返ると、
「そこの殿方。ちょっとわたくしとお話ししましょうか。……すぐに戻ってきますから、マリアンヌとユミナはここに」
と言いながら、男の首根っこを引っ掴んでずるずる引き摺りながら、脇道に入って行った。
何かぼそぼそと話す声。時折、ぎゃあ、という悲鳴とか、ばきっという打撃音が聞こえてくる。
やがてその音も収まり、静かになると、
「ふう」
とリアーヌが額の汗をハンカチで拭いながら戻ってきた。そしてマリアンヌとユミナを見ると、
「丁寧にお話ししましたら、分かっていただけましたわ」
と優雅に微笑んだ。さきほどの「ぎゃあ」とか「ほげぇ」とかいう悲鳴はなんだったか、などという野暮なことは聞かない。きっと「優しく」諭したのだ。
「それは良かったですわ」
やっぱりすり潰しておけば良かったな、という小声の一言は、聞かなかったことにした。
「もう大丈夫ですよ、ユミナ」
「リアーヌ……! ありがとうございました!」
ユミナはぽーっとリアーヌを見つめていた。ユミナは以前から、リアーヌを推していたが、これでますます熱が深まることだろう。
(まあ、でも、女性とはいえ黒騎士セネヴィル家の後継ですもの。苛烈なところもなければ務まりませんわね)
本人は自分のことを可憐でか弱い令嬢だと言い張るが、どう考えても無理がある。ーーみんなからの評価は「かっこいい」令嬢だ。
そんなふうに、誰にでも分け隔てなく接するリアーヌだったが、ただ一人、ローランのことだけは苦手にしていたようだった。
リアーヌは上手にそれを隠していたため、皆は気付かなかったかもしれない。しかし、空気を読むことに長けているマリアンヌから見ると、最初の頃は結構、露骨に避けていた。
(セネヴィル家のお嬢様ですものね。仕方ないですわ)
マリアンヌから見ても、リアーヌがローランと親しくする意味はないように思える。が、周囲の空気を悪くしているわけではないから、まあ、いいか、と考えていた。
ローランの方も、リアーヌと関わることを最小限に抑えているようだった。
二人の家柄、そしてローランが学園の貴公子であることを考えると、その距離感が最適解であると思われた。
しかし。
「セネヴィルさん」
彼はある日を境に、積極的にリアーヌと接しようとし始めた。……リアーヌの反応はお構いなしに。
シャルトル家の者として、セネヴィル家のリアーヌを探っているのかもしれないと、当初は考えていたが、次第に、何か違うのではないかと感じるようになった。
(ただ単に気を引きたいように見える……)
あのローラン・シャルトルが? と思わないでもないが、そう仮定しないと説明がつかない行動が数多くある。何より、
(リアーヌを見る目が熱っぽい)
のである。
リアーヌのことを遊びと考えているのなら、絶対に許せないが、そうでないなら……応援しても良い気がする。
(二人並ぶと、絵になるのよね……)
ただし「騎士と姫」という感じではなく「騎士と騎士」という、ユミナとキャロ教師が目を輝かせそうな少し倒錯的な雰囲気ではあるが。
ちなみに。
リアーヌが風邪で休んだ直後に、ローランが風邪で休んだ時には、特別クラスの生徒たちは一様に「あー、風邪がうつるようなことをしたんだな」と思ったに違いない。敢えて口には出さないけれど。
しかしマリアンヌの見解は、
(まだ清い関係ね)
というものだ。断言してもいい。リアーヌはあれだけの美人の割に、妙に少年っぽいうえ、とてつもなく初心だ。ちゃんと段階を踏まなければ許さないだろう。
なんとなく、だが。
(ローラン様の方が苦労されそう)
と思ったマリアンヌだった。




