閑話3 彼と彼女の関係性
マリアンヌは試験の結果が貼り出された掲示板を見上げる。首席の位置に燦然と輝く名は、ローラン・シャルトル。彼が一位の座を奪還した形だ。
(さすがですわね)
隣ではリアーヌが、マリアンヌしか気付かないくらいだが、ぷるぷる震えていた。
本人は隠そうとしているようだが、ローランに負けたことが悔しいのだろう。友達なので、そっとしておいてあげようと思った。
さて。
フィリウス王立学園で最も人気のある男子生徒は誰か、と問われれば、皆、口を揃えて、こう答えるだろう。ローラン・シャルトルである、と。
容姿は抜群に整っており、貴公子然とした優雅な立ち振る舞い。家柄も良いうえに、勉学も武芸も一際優秀となれば、誰もが憧れずにはいられない。
マリアンヌも、それは認めるところである。
しかし。
(実際に恋人にしたいかどうかと問われますと、別問題ですわね)
ローランと恋人になることを夢見る女性たちも多い中、マリアンヌは現実を見つめていた。
(ローラン様が恋人だなんて、窮屈で仕方がないでしょうに)
ローランは完璧すぎるのだ。少なくともマリアンヌには、彼の恋人となれば、自分自身の至らなさを常に突き付けられ、卑屈な想いに囚われてしまうだろうことが目に見えていた。
実際、ローランは女性と交際することはあっても、あまり長続きしないのは、そういった理由もあるように思う。
(見ているだけで十分)
眼福だ。
そんなマリアンヌは、ローランとは適度な距離を保ち、普通の級友として接し続けてきたし、ローランも決してマリアンヌに近づいてこようとはしなかった。
しかし、一人の少女が特別クラスに編入してきた時から、少しずつ状況が変わり始めた。
セネヴィル家の一人娘。シャルトル家の宿敵と呼ばれる家の出身で、決してローランに見劣りすることのない美しい少女だった。
すぐに彼女も人気が出た。ーーただし、主に女性に、だが。
綺麗だけれど、あまり色気がないこと、逆に中性っぽさがあることが、その要因だろう。
(もちろん、男性の中にも憧れている方はいるのでしょうけれど)
しかし、女性からの熱狂的な人気に押され気味だ。
例えば少し足元が悪いと、
「大丈夫?」
と声をかけ、すっと手を差し出してくれるその仕草は、まるで物語の騎士のようだった。同じ女性同士だというのに、胸がきゅんとときめいてしまう。
そう、リアーヌの立ち振る舞いは「おしとやか」というより「洗練されている」と言った方がしっくりくるのだ。
ただ、時々、びっくりするような行動をとることもあるが。
先日、リアーヌと街に出かけた時、男に絡まれているユミナにばったり会った。一目で柄の悪さが分かるチンピラだ。
「やめてください……!」
「そんなにお高く止まるなよぉ、ちょっと向こうで話をしようって言っているだけだろぉ?」
道ゆく人は見て見ぬふりだ。誰か一人でも助けに入れば、雪崩を打って周囲の者も手伝おうとするだろうが、その一人が出てこない。
級友が暗がりに連れ込まれては一大事だ。マリアンヌは勇気を振り絞って口を開いた。
「おやめ……」
「何してる?」
マリアンヌの言葉にかぶさる、低くどすの利いた声。その声はマリアンヌの隣から聞こえてきた。リアーヌだ。彼女は、
「あ゛ぁ? 嫌がる女性に無理矢理迫るなんて、タマすり潰……」
と言いかけて、はっと我に返ったようにマリアンヌを見ると、にこりと微笑んだ。こほんと咳払いすると、改めて言い直した。
「紳士のなさることではありませんわよ」
タマすり潰してやろうか、オラァ、と言おうとしていたような気がしたのはーーきっと気のせいだろう。
「誰だ! 邪魔するんじゃねえ!!」
怒鳴りつけてきたチンピラは、しかしリアーヌを見ると目を見張った。
「おぉ、上玉じゃねえか。お前が代わり相手してくれるってんなら、この女は離してーー」
やってもいいぜ、とでも続けたかったのだろうが、その言葉が発されることはなかった。
リアーヌが回し蹴りを一発、土手っ腹に炸裂させたからだ。
スカートから伸びる脚がとても長くて綺麗で、マリアンヌはうっかり見惚れてしまった。
その優雅さとは裏腹に、男が吹っ飛ぶ。ーー女の脚力ではこうはいかないので、力を増幅する魔力を乗せたのだろう。
マリアンヌとユミナの視線に気付くと、彼女はスカートをぱんぱんと払い、口元に手を当てて優雅に微笑んだ。




