20 短い天下だった(元)黒騎士さん
寒3の月。冬が終わり暖かさを感じられる季節に、四年生最後の五回目の試験が行われた。
ーーローランが一位だった。
(……短い天下だった)
二位だったリアーヌは天を仰いだ。
そこにローランがやってくる。悔しい思いもあるが、素直に相手の健闘を讃える気持ちもある。
(というか、ここでローランを褒めないと、心の狭い人間だと私の評価も落ちる……)
そんな本音は隠しておかなければ。
前回、ローランに率直に祝意を表明してもらった手前、ここで不貞腐れると、隣にいるマリアンヌから器の小さい人間だと思われてしまう。
当然のように横に並んできたローランに、
「おめでとうございます」
と祝福の言葉を贈ると、ローランは微笑んだ。
「ありがとう。……何となく頬が引き攣っているのは、気のせいか?」
「気のせいです」
どうやら、ちょっとだけ漏れ出てしまったらしい。するとローランは、リアーヌの機嫌を取るかのように弁明を始めた。
「誤解がないように言っておくが、俺は一位を取ることに、そこまで興味はない」
実際、リアーヌが学園に来て一回目の試験は、一位がマリアンヌで、ローランは二位だった。しかし。
「では、この成績は何なのでしょうね?」
ちくりと刺す。今回は首位。そう、結果が全てだ。二位のリアーヌからすれば嫌味にしか聞こえない。
するとローランは苦笑した。
「君に負けるのは、我慢ならないからな」
意外と負けず嫌いだった。友達だというのなら、そんなにリアーヌに勝つことに頓着しなくていいのに、と思うが。
「以前だってそうだ。君さえいなければ、上位を維持していれば事足りた」
「あー、以前はライバルだったからね」
今世と違って派閥争いが激しかったからだろう。
ローランはローランで、シャルトル家の事情で、黒騎士アンリにだけは負けられなかったのだろう。しかし。
「今は家の影響は少ないんだし、別にいいでしょう? 私が首位を取っても」
「駄目だ」
「どうして?」
「君に負けたら、君から雑魚だと思われる」
思いもよらぬ反論に、ぽかんとなる。
ローランを雑魚扱いする人間など、この世にいるのだろうか? いや、いない(反語)。
(いや、ローランを雑魚扱いできるほど、私は立派じゃないから)
と思ったが、ローランの表情は至って真面目で、
「俺が君より成績が下だったら、君は俺に興味を持っていなかっただろう?」
と付け加え、本気でそう考えていることが窺えた。
(まあ、一理あるけど……)
アンリが強烈にローランを意識したきっかけは、彼が宿敵シャルトル家の次男で、常に一歩自分の先を行く存在だったからだ。
「俺は誰より、君に意識される人間でいたい」
「……」
最近とみに感じるのだが。
(何か……独占欲、強くない?)
同じ死に戻りという現象に巻き込まれた同士として、特別な絆のようなものを感じているのだろう。時折、行きすぎて怖い気もするが。
「それで、一位だった俺に、君はご褒美をくれるんだよな?」
物凄く真剣な表情で詰め寄って来た。
(……いや、改めて考えると、同級生同士でご褒美っておかしくない?)
前回のローランは、常に一位だったが、誰かとそんなご褒美し合いっこなんてしてなかっただろう。
この辺で妙な習慣は断ち切りたいところだ。
「私は貧乏なので値の張るものは買えません」
ライカの涙と同等のものなんて、買えるわけもない。……いや、あれは借りただけか。何にせよ、ローランが満足するものを選べる自信がない。
しかしローランは首を横に振った。
「物はいらない」
言い切って、続けた。
「休日に一緒に出かけたいな。友人として」
友人を強調し、お金がかからない方法を提示してくるあたり、絶対に断らせないという決意を感じた。そしてリアーヌは結局、押し切られることになったのである。
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