裏話4-3
リアーヌが編入してしばらく経ってから、随分前に届いていたが、どうせ大した内容など書かれていないと、封も切らず放っておいた両親からの手紙を、はじめて開けた。
「セネヴィル家の娘が編入してくる予定だ。リアーヌという名の一般クラス程度の成績の娘だ。が、我々が特別クラスに入れるよう手配した。お前は没落した家の娘に、しっかりと格の違いを見せつけるように」
あの両親からの手紙など、ろくな内容ではないと放り投げていたのだが、やはり阿呆のような手紙だった。
同時に、くだらない横槍にうんざりする。そもそも人望というものは、学業の成績のみに左右されるものではない。
実際、両親の思惑に反し、リアーヌは凛とした美しい容姿で、女生徒たちの心を鷲掴みにしていた。
一方で、ローランとの接点はほとんどない。彼女の方も、セネヴィル家の娘としてシャルトル家のローランとは距離を取っているようだ。
成績は芳しくないとのことだが、
(賢明ではあるか……)
と評価はする。彼女は編入生として、そつなく立ち回っていた。そういう小器用さも、学生時代のアンリとは異なる点だ。
そのまま、さしたる接点もなく一月が過ぎ去り、四年生最初の試験が行われた。
窓際後方の席のローランは、生徒たちの様子が見渡せる。ちらとリアーヌの様子を窺う。彼女は答案を見てペンを滑らせては止め、滑らせては止め……決してすらすら解いているようには見えない。
やがて解ける問題は解いたのか、ぼーっとしていた。ーーーまだ試験の時間は半分も過ぎていない。
あまりにも問題が解けないと、逆に時間が余るものらしい。
仮にもアンリが大事にしてきたセネヴィル家の後継娘だ。ーーというか、将来は女領主になる人間だろう。
(せめて他に恥じない成績を収めるべきじゃないのか?)
と苦々しく思う。
案の定、リアーヌの成績は特別クラスの下から二番目だった。
彼女は、掲示板に張り出された試験結果の紙の下の方に書かれている自分の名を見ながら、難しい顔をしていた。しかし、
「大丈夫ですわよ、リアーヌ。これから、これから」
とクラスの女生徒たちに慰められ、甘やかされていた。まさに自分が思っていたとおり、成績の良し悪しは彼女の人気を妨げることはないようだ。
しかし、
「セネヴィル。ちょっと」
と学年主任であるコルトー教師が、彼女を硬い声で呼び止めた。彼女の人気も、教師にまでは通用しないらしい。放課後、この散々な試験結果について指導を受けるようだ。
⭐︎
その日の放課後。
本日、最後の授業はコルトー教師の「魔」だったが、試験の答案は分析中で、今日はまだ返せないとのことだった。
帰宅の準備を整え、寮に戻ろうとした時、ふと教卓の上に教材の忘れ物があることに気付いた。
(………)
正直なところ面倒だと思ったが、優等生を装っているローランとしては、研究室まで届けるべきだろう。
そうしてコルトー教師の研究室へと足を運んだローランは、ふと室内から、ひそひそと声をひそめて会話している気配に気付いた。
(……そういえばセネヴィル家の長女が呼び出されていたな……)
と思い出す。
人が成績不振で注意を受けているところを乱入するほど悪趣味ではない。出直そうかと思ったが、少しだけ興味が湧いた。
(リアーヌ・セネヴィル、か……)
クラスでは接触を最小限に抑えているため、未だに人となりを知らない。
(アンリの立場に成り変わった彼女は、どんな人間なんだろうな)
少し聞き耳を立ててみようという悪戯心が頭をもたげ、ローランは身を隠し気配を消したうえ、小さな音を捉える魔法をかける。
すると室内の会話がローランの耳に届くようになった。
「リアーヌ。お前、いい加減にしとけよ」
「ちょっと目測を誤っただけだって」
二人のいつもと違う砕けた話し方に、おや、と思う。どうやら教師コルトーとリアーヌは、知り合いらしい。
「お前、この成績はいくら何でも駄目だろう。落ちぶれていたとはいえ、セネヴィル家はそれなりに格のある家柄だ。その家の一人娘が馬鹿と思われては恥ずかしい」
「だから、ごめんなさいって謝ってるでしょう」
深刻な口調のコルトー教師に対して、リアーヌの声の調子は軽い。それを聞いたコルトーが大きな溜め息を漏らした。
「先生に顔向けできない」
コルトー教師が言う「先生」とはリアーヌの母を指すのだろう。リアーヌの母は、領地で私学を開設し、時に自ら教鞭を執っているという話だ。
ローランの母曰く「貧乏領地の小銭稼ぎね。貧乏臭いこと!」とのことだ。しかしローラン自身の考えは、それとは異なり、彼らはもっと先を見据えているのだと思う。
(コルトー先生は、その私学出身ということか)
それならばリアーヌと知り合いであることにも説明がつく。また、気安い口調から恐らく親族なのだろう。
「本音を言うなら、今からでも一般クラスに落ちたい」
と言ったリアーヌは、コルトー教師に理由を問い詰められ、言いにくそうに答えた。
「ここにはシャルトル家の次男がいるし……」
不意に自分の名が出て来たため、ローランは思わず息を詰めた。




