19-2
触れたローランの額は、随分と熱かった。
「冷たくて気持ちいいな」
「……私の手は氷代わりにはならないと思う」
そう言いながらも、魔法で手に冷気をまとわせてみる。ローランは気持ち良さそうに目を閉じた。
(こういう時って、母上は頭を撫でてくれたな)
熱を出した時、母親が優しく髪を撫でてくれて、とても安心したことを思い出す。
少し柔らかなローランの金の髪をそっと撫でると、やがてローランは眠りに誘われたのだろう、静かな寝息を立て始めた。
⭐︎
(そろそろ一時間か)
少し様子を見ようと、本を片手に残っていたが、ローランはすっかり眠りに落ちている。
(帰ろうかな)
夜間外出届を出していないので、あまり女子寮への帰りが遅くなると、寮母からの厳重注意を受けてしまう。
また、男子寮の寮母に退室を告げて、ローランの部屋に鍵をかけてもらう必要もある。そう思って腰を浮かせたその時、不意にローランがうなされ始めた。
何かを探し求めるように手を伸ばしたので、思わず手を取って握り返してしまった。
すると、ローランがうっすらと目を開く。そしてリアーヌを見た彼は、
「アンリ……」
とかつての自分の名を呼んだ。どうやら寝ぼけていて、過去と現在の区別がついていないようだった。
そのまま、彼は両手を伸ばしリアーヌの両腕を掴みーー。
「……うわっ……!」
寝台に引き摺り込まれた。そしてぎゅっと抱き締めてくる。
(ちょ、ちょっと待って……!)
男子寮の一人部屋。一つの寝台で抱き締められるということが、どれほど乙女にとって危険な状況であるかは、いくら男女の機微に疎いリアーヌでも理解できる。
慌てて逃れようと、ローランの手を外そうとしたが、
「アンリ、やっぱり君はいたんだな……」
という声を聞いて、動きを止めた。ーーーその搾り出すような声が、苦しくなるほど切実な響きを帯びていたからだ。
ローランはさらにリアーヌの体をかき抱いた。
「君がいない世界で人生をやり直している夢を見た。生きている意味なんて何もない世界で……苦しかった」
そう語る声は、胸が衝かれるほどに苦しげだった。
「君がいないとーー生きていけない」
彼はその言葉を繰り返した。
リアーヌはローランを避けて生きてきたが、彼はずっとアンリを探して生きていた。そして、その人が存在しないと悟ってからの人生には、真っ暗な闇の中を進んでいるような心細さがあったことだろう。
以前ーーつまりアンリなら「そんなの、お前が勝手に探していただけだろう」と突き放した気持ちになっていただろうが。
(仕方ないな……)
……随分と絆されたものだ。リアーヌは、ローランの両頬を手で包み込み、瞳を覗き込んだ。
「ローラン、俺はここにいるよ。お前にいつか勝たないといけないからな」
アンリという人間はいつでも、ローランに勝つことだけを考えて生きていた。だから彼を安心させるために、アンリらしい言葉を選んだ。
「だから、ちゃんと眠るんだ。体調が悪かったから負けた、なんて言い訳されたら困るしな」
仕方ないので、もう一度、頭を撫でてやる。するとローランは心地よさそうに目を細めた。
「しない。絶対に君には負けない、から……」
少しうとうとし始めつつも、言葉を重ねた。
「ずっと俺のことだけ見ていて」
「うん」
リアーヌが頷くと、彼は安心したように息を吐き、そして目を閉じた。体の力も抜けたようで、やがて再び規則正しい寝息が聞こえるようになった。
寝ぼけていたローランの拘束は緩かったので、何とか抜け出すことができた。
その後、改めて静かに寝息を立てているローランを見て、首を捻る。
(……でも、そんなに執着されるようなこと、なんかあったっけ??)
アンリだった頃、ローランから特別な感情を抱かれていた記憶は、どこをどう探しても欠片も見当たらないリアーヌだった。
改めまして、皆さま、少しずつ相手と心の距離が近づいていく系TS男女はお好きですか?
私は好きです!
さて、このお話ももうすぐ10万字の大台です。ここまでついてきてくださっているTS男女好きの皆さま、TSって馴染みなかったけど、何だか気になってきて、ここまで読んじゃったよ〜という方も、ありがとうございます!
そして改めまして、リアクション・評価・ブックマークなどで応援くださった方々に、いつも励みにしていますと、感謝の気持ちをお伝えさせてください!
TS男女好きさんが増えますように……!




