19 風邪がうつった白騎士さん
(復・活!)
数日休んだリアーヌが、風邪から華麗に回復して登校しようとすると、いつもの場所で待ち構えているはずのローランの姿がなかった。
登校すると担任のキャロ教師がこう告げた。
「シャルトルさんは体調不良でお休みです」
どうやら風邪がうつってしまったらしい。
(だから早く帰れって言ったのに)
自分のせいではないはずだし、自分と同じただの風邪だ。心配するほどのこともないだろうし、と思っていたが。
「リアーヌはお見舞いに行かれませんの?」
ローランがリアーヌの見舞いに行ったことを知っているのだろう。昼食の時間に、マリアンヌがそう尋ねてきた。
自分は見舞ってもらったのに何もしないとなると、薄情者と思われかねない。
「え、ええ。もちろん、お見舞いに行こうと思っていました」
マリアンヌとの友情に一筋のひびも入れたくないリアーヌは、仕方がないので見舞いに行くことにした。
(別に心配してるわけじゃないから)
と自分に言い聞かせて。
⭐︎
そして放課後。
男子寮に入るには、まだローランほどの人望がないリアーヌは、仕方がないので担任のキャロ教師に口添えを頼んだ。キャロ教師は瞳を輝かせ、
「まあまあ、まあまあまあ! 仲が良いのね!」
と飛び跳ねた。
リアーヌの風邪が感染った、などと言おうものなら、さらに興奮してしまうだろうから、
「いえ、今日の授業のノートを渡しに来ただけです」
と、曖昧に笑ってやり過ごした。
ローランの部屋の前まで案内してくれたキャロ教師は、目を爛々と輝かせる。
「何なら一晩中看病してもいいのよ。先生がちゃんと誤魔化してあげるから」
「しません。あと覗き見も駄目ですからね。分かりますから」
即答したうえで釘を刺すと、キャロ教師はしゅんと肩を落として去っていった。
キャロ教師の気配が完全になくなったことを確認し、リアーヌは扉を叩く。
病人だから動くのが億劫なのだろうか、戸が開くのに少し時間がかかった。気怠そうなローランは、来客の相手を見もせずに、
「すまない。見舞いは遠慮しているんだが……」
と言ったのち、リアーヌを見て目を見開き、口を噤んだ。
「そう? だったら帰る」
くるりときびすを返そうとすると、手首を掴まれた。
「待ってくれ。君の見舞いは歓迎する」
慌てたように言ったローランは、リアーヌの返事を聞くことなく、そのまま部屋に引き入れた。
(ここがローランの部屋……)
無駄なものが一切ない、どこか殺風景な部屋だった。ローランらしいといえば、ローランらしいが、どこか少し物悲しい。
「よく男子寮に入れたな」
「キャロ先生に頼みました」
「それは……明日は面倒だろうな」
そう言いながら、いそいそと飲み物でも出そうかとしているローランの動きを制する。
「病人は寝てて。私のことは気にしないで」
そして持参した水差しをテーブルに置く。熱を出すと汗をかいて脱水症状を起こしやすい。そういう時には塩分を含む水分を摂るのが肝要だ。しかし、ただの塩水だと飲みにくいため、これは蜂蜜や砂糖、レモンを混ぜ、少しはましな味にしたものだ。
ローランはリアーヌの言葉に従って、大人しく寝台に潜り込む。横になるなり、こんこんと上品な咳をした。
リアーヌは複雑な気持ちを抱く。
「乙女みたいな咳ですね」
「これが通常なんだ」
何故か弁解するような口調で、そう言われた。
(顔が赤いな……)
熱が気になり、そっと手を伸ばして額に触れると、一瞬ローランの体がびくっと震えた。
「あ……もしかして触られるの苦手だった?」
ローランの方は躊躇なく自分に触れてくるので、大丈夫かと思ったのだが。考えてみれば、ローランは本質的には警戒心の強い人間だった。
慌てて手を引っ込めようとすると、ローランの手が素早く伸びてきて、手首を握った。
「得意ではない、が、君ならいい」
そのままリアーヌの手を手繰り寄せ、自分の額に押し当てた。




