18-2
(意外と乙女な部屋で、驚いてるな)
リアーヌは、誰が何と言おうと深窓の御令嬢であり、同時に完璧主義だった。セネヴィル家の次期領主として恥じることなき、究極の乙女らしさを追求するため、部屋の随所に可愛らしいものを配置している。
窓辺には花、寝台には可愛らしいぬいぐるみ、花柄のクッション、そして木刀一本、握力を鍛えるための器具、腕の筋肉を鍛えるための重りが置いてある。可憐な乙女も、身を守るための自主鍛錬は欠かせないものだ。
ーー本当はもっと本格的な訓練道具を持ち込みたかったが、母に止められ、学園側からも難色を示されたため、泣く泣く諦めたのである。
ローランは、この完璧な乙女の部屋については特に言及して来ず、訓練道具置き場からそっと目を逸らしながら、話しかけてきた。
「……あの生徒には、一人で水に入るなと言っていたが、君は何をしに行っていたのかな?」
「……」
私も同じ魔草を探していました、とは女生徒に説教した手前、口が裂けても言えない。ローランも、リアーヌが魔草を摘みに行っていたことを察したうえで、意地悪く聞いてきているのだ。
「言ってくれれば、俺もついて行くのに」
「何故、ローランを連れていく必要が……っ」
喋っていると喉が痛み、咳き込んだ。
口元を押さえ、ごぇふ、ごぇふと咳を繰り返すと、ローランが呟いた。
「……豪快だな」
女の子らしい病相でも期待していたのだろうか。しかしローラン相手に、病気の時まで取り繕う必要性を感じない。
「嫌なら帰って」
けんけんと咳をして、手で追い払う仕草をしながら、言葉を継いだ。
「他の人が見舞いに来たら、ちゃんと取り繕うから。……でも、貴方に取り澄ました態度をしても、無駄でしょう?」
「そうだな」
答えたローランは、そのまま机の椅子を持ってきて寝台の傍らに座った。帰る気はないらしい。彼は改めてリアーヌの顔を見て、眉を寄せた。
「辛そうだ」
「風邪だからね。……でも、貴方に殺された時の痛みに比べれば、全然ましですね」
ピシッと嫌味も混ぜてみる。
「それは……悪かった」
悪かったとは全く思っていなさそうな声で謝罪された。その後、すっと手が伸びてきて、リアーヌの頬に触れた。
「顔色が悪い。薬はちゃんと飲んだのか?」
先ほどの心のこもらない謝罪とは打って変わった、心配そうな声。
「君が死んだら、俺は生きていけない」
「いや、ただの風邪だから。死なないって……っ!」
思わず突っ込んで、また咳き込んだ。
というか、縁起でもない。今世は天寿を全うするつもりだ。
「何か俺にして欲しいことはないのか?」
本気で労わるような瞳だ。同時に、どこか心細そうでもある。頬に触れていた手が頭に移動し、そっと撫でてくる。
「静かにしてて、寝かせて欲しい」
こんなふうに触れられると、何故か心がざわついて落ち着かない。
「それに風邪が感染るといけないから、早めに出て行って」
もう一度手で追い払う仕草をするが。
「君が眠るまで側にいたい。邪魔はしないから」
最初からそのつもりだったのだろう。ローランは鞄から本を取り出すと読み始めた。
意外と頑固なローランは、こうと決めたら梃子でも動かない。追い出そうとしても無駄だろう。リアーヌは諦めて目を閉じた。
本の頁をめくる音。時計が秒針を刻む音。そしてローランの密やかな息遣い。
そこにいるのは、かつての宿敵。彼がいる空間で、すやすや休めるはずなどない。
ーーと思っていたにもかかわらず、静かな睡魔が襲ってくる。やがてリアーヌは、穏やかな眠りに誘われたのだった。




