裏話3-4
「カミーユ王子、こんな私に心を配ってくださり、ありがとうございます」
そう言いながら、父親をチラリと見て震えてみせる。王子は、いたいけで可哀想な少年を見過ごせる性格ではない。
震えるローランを、痛ましげな眼差しで見やった王子は、ローランに向けて「大丈夫だ」というように目配せしたのち、父親にこう言い放った。
「近日中に彼を、私の友人として登城させるように」
そしてローランの手を取る。
「私はこの、小さな友人と歓談したい」
すると父が、ぐいっとローランを後ろに押しやった。
「それならばこの子ではなく、長男のドミニクを是非」
揉み手をしながら溺愛する長男を推薦する父親に、カミーユ王子は微笑んだ。
「ドミニク殿のことは十分知っているからね。私は新しい友人としてローランを迎えたいんだ。彼もシャルトル家の一員だ。シャルトル家にとって、何の不利益もないだろう? ……さあ、ローラン。私と一緒に食事をしよう」
そう言ってカミーユ王子は、ローランを父親の元から連れ出してくれたのだった。
少し離れた場所に移動すると、カミーユ王子は疲れたようなため息をこぼした。
「君も大変だね。親は選べない」
毒婦アンジェラのこと思い出しているのだろう。遠い目をしていた。
そんな彼に、ローランは意を決して尋ねた。
「あの……」
「ん?」
「アンリという男の子は、参加していませんか?」
自分が知らなくとも、王家の人間であるカミーユ王子なら知っているに違いない。そう思って聞いたのだが。
「アンリ? 聞いたことない名前だなあ」
その答えに、愕然とする。
アンリは、名門セネヴィル家の後継息子だ。王家の人間が知らないはずはない。
しかしカミーユ王子が嘘をつく理由もなく、混乱する。
結局、園遊会でアンリの姿は見つけられないどころか、アンリの名前さえ聞こえてこなかった。
⭐︎
前回より早い段階でカミーユ王子と接触し、彼がローランを「私の小さな友達」と遇してくれたたためか、シャルトル家からの待遇の改善も早まった。
食事も潤沢に出されるようになり、ローランは標準的な体重になった。肌や髪の色艶が良くなり、誰もが一目で振り向くほど美しい少年になった。
同時に、この家族に干渉されない人生を歩むためには、経済的な自立が必要だと痛感し、両親に隠れて投資活動を行った結果、十分な富を得ることに成功した。
ーー先のことを知っているのだから、当然と言えば当然だ。ズルい手かもしれないが、ローランは使えるものは何でも躊躇なく使う主義である。
また、以前と違う流れは、園遊会でカミーユ王子に会ったことだけではない。
以前、シャルトル家を支えていた第二夫人にして毒婦アンジェラは、少し前から横領疑惑で蟄居を命じられていたらしく、間もなくして間男も発覚して地位を追われた。後ろ盾を失ったシャルトル家の勢いは削がれ、代わりに前回不遇だったセネヴィル家が勢いを取り戻しつつあった。
しかし園遊会で確認したとおり、セネヴィル家には跡取りがいなかった。領主夫妻は一人、子を授かったが、すぐに病死したらしい。彼らは周囲から、
「後継はどうするのか」
と尋ねられても、
「現在、熟考中なのでご心配なく」
とのらりくらりと躱しつつ、追及を避けるために中央から少し距離を置いているようだ。
一方で後ろ盾を失ったシャルトル家の領主夫妻は、前回以上に、愛していない次男を利用することにしたらしい。ローランに最高の教育環境を与え、
「お前は次男だが、シャルトル家の一員として恥ずかしくない成績を収めるように」
と常に言い聞かせるようになった。
だからといってローランに愛情をかけるわけではない。相変わらず彼らは、長男のドミニクだけを溺愛していた。
ーー前回よりも少しだけまし。
ローランの幼少期は、そんな程度のものであり、アンリが存在しないという空虚さを埋めるには程遠いものだった。
⭐︎
ーー。
ーーーーーー。
リアーヌの問いかけに対し、ローランは頭の中を駆け巡った記憶をひとまとめにして、
「まあ、普通だったな」
と結論づけた。
「普通?」
ローランの答えに納得がいかなかったらしいリアーヌが、口を尖らせる。
彼女が自分の過去に興味を示してくれたことは嬉しく思う。が、彼女にこの重い感情を伝えるのは、憚られた。
(今はまだ)
不満そうにしているが、きっと知らぬが花だろう。
少年アンリと友達になれなかった少年ローランのお話でしたが、みなさま、親友→TS男女と宿敵→TS男女、どちらがお好きでしょうか?
私はどっちも好き! 元親友でも惹かれ合うし、元宿敵でも惹かれ合う。TS男女は可能性に溢れていますね!
TS男女好きさんが増えますように……!




