裏話3-3
とても優しくて元気な少年のことは、ローランの胸に焼き付いて離れなかった。
(あの子にもう一度会いたい)
強く、そう願った。そして友達になろう、と。
しかしあの少年は、王家の社交場に出てくる子だ。良い家柄もしくは有力者の子供だろう。再会するためには、自分にもそれなりの地位が必要だ。
シャルトル家は名家だが、次男で蔑ろにされている自分は、現状、その名を有効に使うことができない。
(それに、騎士になるなら、王立学園に行かないと)
そのためには、家族に自分を認めさせる必要がある。外に出すだけの価値があると思わせる。前回はその一念が、家族からの冷遇から抜け出すための原動力だった。
⭐︎
そして子供に戻ったローランは今、二度目の園遊会を迎えていた。
以前と同じように会場の隅で佇むローランには、しかし前回とは違い明確な目的がある。
(アンリはどこにいるんだ?)
以前はこの時、名乗り合うこともなく別れたが、今回はこれを機に親しくなろうと思った。
前回の人生を辿る気など、さらさらなかった。それによって世界に不都合が生じても、構いはしない。
早くにアンリと親しくなれば、つまらない世の中も、一気に面白くなるだろう。
(前回は、本当にもったいなかった)
早々にアンリと友人になることを諦めてしまったのは、痛恨の極みだろう。人生を棒に振ったようなものだ。
今度こそ、アンリの喜びも悲しみも、怒りも何もかもを、自分に向けさせたいと切に願う。
そう思って黒髪の美しい少年の姿を探す。
しかし。
(……いない)
会場のどこを見渡しても、アンリの姿が見当たらない。
ローランは呆然とした。前回は今頃、既に向こうから声をかけられていたはずだ。
(何故だ……?)
呆然と立ち竦んでいたローランは、いつになく周囲への警戒を怠っていた。そのため、人が近づいて来たことに、直前まで気付かなかった。
「どうしたんだい?」
突然、背後から声をかけられ、ローランは勢いよく振り返る。
柔らかな栗色の髪。顔立ちは整っているが、温和で人の良さが滲み出る人好きのする容姿。その少年の姿に、見覚えがあった。記憶の中よりあどけない姿だが、間違いない。
(カミーユ王子……)
かつてローランの主だったフィリウス王国の第一王子だ。ローランは彼をよく知っているがーー前回は、ここで出会うことはなかったはずだ。
以前とは違う流れに、正直なところ、戸惑った。
「カミーユ王子……ですか?」
前回のカミーユ王子は決して悪い人間ではなかったが、母親に翻弄され、いつも自分に力がないことを嘆くばかりの頼りなさが印象に残っている。
「うん。君はシャルトル家のローランだよね」
一人、ぽつんと立っているローランを気にして声をかけたのだろう。やはり優しい性質の持ち主で、一般の家庭に生まれていたならば、誰からも愛される人だっただろう。
そんなふうに心の中でカミーユ王子を評しながら、
「はい」
と答えたところで、
「ローラン!」
という父親の厳しい声が飛んできた。父はローランの元に駆け寄ってくるなり、
「王子! うちの愚息がご無礼を。ローラン、何をしている! もっと深く頭を下げろ!」
とローランの頭をぐいぐいと押さえつけてくる。幼い息子に対する、そのぞんざいな扱いに、カミーユ王子が眉を顰め、制止した。
「いい。私が声をかけたんだ」
「しかし……」
渋る父親には構わず、カミーユ王子は軽く膝を折り、ローランと視線の高さを合わせる。
「私は是非、彼と友達になりたいな」
彼が、二心なくローランを気遣ってくれているのが分かる。
「……」
ローランは頭の中で素早く計算する。そして解を出した。今はその優しさを利用しない手はない、と。




