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その少し前のこと。
所変わって、リアーヌたちと引き離されたローランは今、心底うんざりしていた。
敵襲と共に地面が盛り上がり滑り落ち、それが巨大な壁になると、オルガは「怖い……!」とローランの腕を引いて、反対側に逃げ出したのだった。
結果、リアーヌたちの状況が全く分からないほど距離が離れてしまった。
「ローラン様……」
オルガは不安げな表情を作っているが、察するものがあった。先ほどの襲撃は、この女の差し金だと。自分と二人きりになるために、リアーヌと自分を引き離したのだ。
前回、敵陣営同士だったアンリとは、共闘する機会などなかったローランは、この日を密かに楽しみにしていた。初めての共同作業だと心踊らせていたのである。
にもかかわらず、現実はこうだ。リアーヌと引き離され、心底、不本意な状況である。それと同時にーーリアーヌのことが死ぬほど心配だった。
(あれでも女だからな……)
リアーヌが今でも十分強いことは知っている。しかし筋肉の付き方や腕力は、どうしても男に劣る。そして残念なことに彼女は大層顔が良いため、ごろつきたちに良からぬ感情を抱かせるかもしれない。
演習中なので、大それたことはできないだろうが、それでも彼女に自分以外の誰かが触れることを想像すると、見知らぬ誰かに殺意が湧いた。
(早くリアーヌの元へ行かないと)
そのためには、目の前の女が邪魔だった。
ローランは女に向き直った。
「オルガさん、と言ったかな」
「は、はい、ローラン様! 私の名を呼んでくださったのですね! 嬉しい」
抱きついて来ようとする女生徒を、身軽に避ける。そのまま十分な距離を取り、
「用兵において、一人を死守して二人失うことと、一人を切り捨てて二人を救うこと。……どちらが上策だと思う?」
と問いかけた。突然質問されたオルガは首を傾け、
「……え?」
と戸惑いの表情を見せる。ーーきっと多くの男は、その表情に絆されるのだろうが、残念ながらローランの心はぴくりとも動かない。
「君がいると、仲間を助けに行けない」
そう言ってローランは、オルガのタスキを目にも止まらぬ素早さで切る。
そして、何が起こったのか分からず呆然としているオルガに、奪ったタスキを振りながら微笑みかけた。
「すまないが、退場してくれ」
タスキにかけられた魔力が、位置情報を発し始めるのを感じる。
ローランは上空に視線を走らせた。教師たちは「騎獣」という魔力を帯びた空を駆ける生物に乗って巡回している。彼らは程なくして、脱落者を回収するためにやってくるだろう。
仲間割れは減点対象だが、やむを得ない。
「ローラン様!」
と呼び止めるオルガに構うことなく、ローランはリアーヌがいるだろう方向へと駆け出しーー中身が漏れ出しているリアーヌと合流した次第である。
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背後からローランの、
「リアーヌ、その辺でやめておけ」
という声を聞いたリアーヌは、後ろを振り返った。そこにローランが単身で立っているのを確認し、
(あー、あのオルガって子、ローランが脱落させたんだな)
と察した。はっきり言って演習の邪魔でしかなかったので当然の判断だが、ローランに切り捨てられたオルガという子はさぞ無念だっただろう。
(同情はしないけど)
ただ、ローランと二人きりになりたいだけなら、協力しても良かった。何ならリボンをつけて渡してもいいくらいだが、男をけしかけてこちらを襲わせたのは到底、許せない。
(私一人だったらともかく)
レベッカを巻き込んだのだ。もしかすると、男に対するトラウマを植えつけられてしまったかもしれない。
「無事か?」
そう尋ねてくるローランに向けて、リアーヌはひらひらと手を振ってみせた。
「まあ、脱落はしてませんよ」
「……みたいだな」
答えた彼は周囲の惨状を改めて眺め、呆れたような目で見てきた。
「君は戦闘になると、相変わらずチンピラのようだな」
「ほほほ、何をおっしゃいますのやら。貴方が見たのは、きっと幻ですわ」
そう言いながら、転がっている少年の背中を押さえつけていた足をそっと退けたのち、口元に手を当てて優雅に微笑んでみせた。再びローランが呆れたようなため息をついた。




