16-2
リアーヌはその歪みを即座に、
(魔力の歪み)
と判断すると共に、レベッカの腕を引いて抱き寄せた。それと同時に、地面が盛り上がる。
すぐに勾配が急になり、踏ん張れずに体が下へと滑り落ちた。
ローランたちは、逆方向に滑り落ちているようだ。
そして盛り上がった地面は土の壁となる。土人形ーーいわゆるゴーレムかと身構えたが、攻撃してくる様子もないので、ただ目隠しのようだ。要するに。
(引き離されたってとこか)
リアーヌの側にはレベッカがいる。裏を返せば、ローランの側にはオルガがいるということだ。今の魔法に乗じたオルガが、不必要に遠くにローランを引っ張って行ったのだろう。
(仕組まれていたな)
授業の一環である演習の最中に、このような真似。驚くより呆れていると、
「よぉ」
と声をかけられた。
見やれば素行の悪そうな二人組が、にやにや笑いながら立っていた。組んでいるはずの特別クラスの学生二名の姿が見えない。恐らく、わざとはぐれたのだろう。
(不良その一、そのニってところかな)
オルガの信奉者なのだろう。彼らは、
「お前らのタスキ、もらうぜ」
と言うなり、レベッカに向けて木剣を打ち込んできた。リアーヌは咄嗟にレベッカの手を引き、攻撃を躱す。
びゅんと木剣が風を切る音が聞こえた。
……避けたから良いものの、もしレベッカに当たっていたら、大怪我だろう。
もちろん、これは演習なので多少の怪我は想定内だが、自分より明らかに弱いと判断した相手には、攻撃ではなく交渉でタスキを奪うのが暗黙の了解だ。彼らは、オルガ無理やり組まされたレベッカを「弱い」と見ているはずだ。
ーーにも関わらず、攻撃した。つまり慣例違反である。
「本気で打ち込んできましたね」
抗議の声を上げたが、少年たちはにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「だってオルガが、本気でやれって。特に、リアーヌ・セネヴィル。お前な」
「やったらデートしてくれるって」
オルガの思惑は、邪魔者であるリアーヌとレベッカをさっさと脱落させて、ローランと二人きりになれる時間を引き伸ばしたい、ということか。
一般クラスの生徒が特別クラスの生徒と二人きりになれる機会は、そうそうあるわけではない。
(でも、何で私を特別指名!?)
まさかローランと親密な女性として認定されているのであれば、お門違いだ。確かに友人にさせられはしたが、それ以上でも何でもない。誤解で襲撃されるなど、迷惑極まりない。
ーーとは思ったが、今は目の前の不良たちをどうにかするのが先決だ。
リアーヌは、少年らのフィリウス王立学園の生徒として相応しくない行為に腹が立っていたので、つい挑発するように、
「……その愛しのオルガさんは、シャルトルさんに夢中のようですが?」
と鼻で嗤いながら、顎で二人がいるだろう方向を指した。少年たちはぐっと呻いたのち、
「シャルトル様は特別なんだから仕方ねーんだよ!」
とわめく。こんなゴロツキでも、ローランには一目置いているらしい。
何にせよ。
(あほらし……)
何故、ローランをめぐる恋の鞘当てに、自分が巻き込まれなければならないのか。
多大な迷惑だ。
加えて、落胆のため息をつく。
ローランがあのように足止めを喰らっている今、この演習で優勝することは不可能となった。
(どうせローランと組むのなら、せいぜい良い成績でも収めようと思ってたのに)
リアーヌは基本、優等生で、同時に負けず嫌いだ。なんだかんだで勝負事には熱くなるタチである。
でも、こうなると。
(……余計な労力を使いたくないな)
何もかも馬鹿らしくなってきた。やる気完全喪失である。
レベッカも、こういった演習に慣れておらず、タスキを奪うためにこちらから襲撃するということは考えてもいないだろう。
であれば、ここは逃げて彼らを撒いた後に、二人でどこかに隠れ、静かに終了時間を待つのが得策ではないか。
そう判断したリアーヌは、
「レベッカ。逃げましょう」
と声をかけるが、しかし、レベッカは動かない。
よく見ると足が震えている。怯えて体が動かないようだ。
「どけ! お前には用はねえんだよ!」
レベッカが乱暴にどつかれ、地に倒れ伏す。そんな彼女を、少年が更に足で蹴り付ける。
「っ………!」
痛みに呻くレベッカの声を聞いて、ぶちっと頭の奥で何かが切れた音がした。
(戦意のない女を足蹴にするなんて、騎士の風上にも置けないクソ野郎だな!)
そして、やったことは、やり返されても仕方ないのだ。
「そっか。私に用があるってことかな? じゃあ………仕方ないな」
リアーヌは、不良学生に向けて不敵に言い放った。




