16 大規模演習と恋の鞘当て
暑さも和らぐ涼2の月。
この月には、特別クラスと一般クラス合同で大規模な演習訓練が行われる。武もしくは魔の課程を取っている者が履修対象者だ。
特別クラスは演習が必須なので全員参加であり、一般クラスはその同数である三十名が参加可能だ。
特別クラスと一般クラスの二名ずつ、合わせて四名で一組となり、定められた広大な演習場内で模擬的な戦闘を行う訓練だ。
武器は演習用の木剣を使用し、魔法は攻撃以外の魔法のみ可である。
(ちなみに木刀も可、と)
木剣と木刀は、若干、形状が違う。フィリウス王国では両刃の剣が主流であるため、訓練も基本的に両刃仕様の木剣で行うが、騎士の名門セネヴィル家に「刀」という片刃の剣の使い手が多いため、片刃仕様の木刀も使用を許可されている。
ーーなお、武闘大会の後、ローランが投げつけてきたのは紛れもなく木刀だった。彼がリアーヌを、アンリと同じ刀使いだと認識していたということだ。
さて、この演習は参加者が全員、細長い布を端で結んだ「タスキ」と呼ばれるものを肩から斜めがけしており、そのタスキを奪い合うものだ。タスキを切られる、その結び目を解かれる、もしくはタスキ自体を奪われると「致命傷を負った」とみなされ脱落となる。
タスキには感知の魔法がかけられており、切られたり奪われた時点で、監視役の教師によって演習場外に連れ出されることになる。
また、チーム四人の内三人が脱落したら、チーム全体の敗北で、全員脱落し、最終順位は残った人数とタスキを切った数で決まる。
そして、演習で優秀な成績を収めると就職に有利になるため、人によっては最重要なイベントである。
(なんといっても騎士の国だからね)
勇敢に戦い勝利した者に最大級の祝福を。それがこの国の基本方針だ。
ーーというわけだが。
(マリアンヌと組みたいなぁ)
今のリアーヌは、演習で良い成績を残す必要はない。であれば気心の知れた彼女と組んで、無難にやり過ごしたいのが心情だ。
「マリ……」
アンヌ、と声をかけようとしたところ、キャロ教師の声が割って入ってきて、
「リアーヌさんは編入生だから、この演習は初めてでしょう? だったら級長のシャルトルさんと組んではいかが?」
と特大魔法弾のような提案を投下してきた。
(また余計なことを……!)
しかし、その一言は級友たちの心に響いてしまったらしい。皆、うんうんと首を縦に振っている。
極め付けは、
「俺で良ければ喜んで」
とローラン本人が嬉しそうに承諾したため、彼と組まされることになった次第である。
(いや、成績のことを考えたら、普通、優勝候補のローランと組みたくない?)
級友の気持ちが分からないし、そもそも。
(丸一日、ローランと一緒に行動とか、どうすればいいんだろ??)
その日のことを考えると頭が痛くなりそうなリアーヌだった。
⭐︎
ーー。
ーーーーー。
そしてリアーヌは今、冷めた瞳で、目の前で繰り広げられる光景を眺めていた。
「シャルトル様、私、怖い……」
そう言って、今回組むことになった、オルガと名前だけ名乗った一般クラスの女生徒は、豊満な胸を押し付けるように、ローランの腕にしがみついた。
演習が始まってから終始、この調子である。
「……」
特別クラスの生徒たちは、基本、いい子たちだ。
しかしリアーヌは悟った。彼らは自分たちがローランと組みたくなかったがために、キャロ教師の推薦を良いことに、リアーヌに押し付けたのだと。
(うん、分かる……。私も同じ立場だったら押し付けるよ)
他の二人の女生徒のことなど、いないも同然のように振る舞うオルガを見て、心からそう思う。
今までローランと組んできた特別クラスの生徒たちは漏れなく、こんな場面を見せられてきたのだろう。うんざりするというものだ。
その光景を白けた目で眺めるリアーヌの側には、もう一人の一般クラスの女生徒がおり、名をレベッカという。こういう演習には向いていなさそうな、大人しげな女生徒だ。魔の科目の履修者のようだ。
(この子は、引き立て役に選ばれたのかな)
特別クラス二名と一般クラス二名の組み合わせはくじ引きだ。ローランと組になれるかは運だが、もし運良く組めた場合に、自分のライバルになりそうな女性がいると不利だ。だからローランに近づけなさそうな大人しい子をパートナーに選んだのだろう。
何にしても。
(どうしようかな)
積極的に索敵する雰囲気でもない。
ーーと思ったところで、ぴりっと空気が歪むのを感じた。




