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死に戻ったら前世で私を殺した宿敵が溺愛してきます  作者: しののめ


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裏話2 マリアンヌさん

 ローランにとって、マリアンヌという女生徒は、他の生徒とは少し違って苦手な存在だった。

 誰とでも上手く付き合えるローランはもちろん、そんなことはおくびにも出さないが。


 かつての世界で、こんなことがあった。


「セネヴィルはまた二位かよ。二番魂が染み付いてんなぁ」


 試験の結果が貼り出された掲示板の前で、一般クラスの男子生徒が揶揄する声が響き渡る。

 いわゆるシャルトル派を勝手に自称する者たちだ。ローラン・シャルトルの威という偽物の皮を勝手に被った、くだらない連中だった。当然、ローランは彼らと話をしたこともない。


 アンリの成績がローランより下であることは紛れもない事実だが、暴言を吐いている輩よりは格段に優秀だ。

 何故、アンリが言い返さないか理解できない。しかしローランが間に入ると、馬鹿はますます思い上がる。


 実際、一度やんわりと注意した時、


「ははっ、シャルトル様に庇われて情けねーの!」


と逆に増長させただけだった。

 なお、アンリからはローランが憎々しげに睨まれた。さすがに「言ったのは俺じゃないだろう」と訴えたかったが、そんな空気ではなかった。


 以降、余計な介入は控えているものの、やはり聞くに耐えない。そんなふうに思っていると、不意に鈴の音を転がすような声が響き渡った。


「ふうん、では貴方たちはさぞかし良い順位なんでしょうね」


 その声の主は、マリアンヌだった。縦に巻いた髪型が、その日も芸術的だった。そんな彼女は、


「この方のお名前は?」


と調子に乗っていた学生の名を周囲から聞き出し、掲示板に向き直った。そして一般クラスの順位表を上から順に、見ていく。


「あら、十位以内にお名前はありませんわね」


 次に、芝居めいた仕草で手庇しをして上位五十名を上から順に確認する。


「あら、五十位以内にも!」


 さらに、わざとらしく腕組みをして考え込む。


「もしかすると下から数えたほうが早かったのかしら」


 もっと大袈裟にかがみ込んで掲示板の下を覗き込む。そして本当にお尻の方にひっそり書かれている名前を見つけたのだろう、にっこり微笑む。恐らくその場にいた誰もが、この学生が下から二番目の成績だったことを知ったはずだ。


「素晴らしい成績ですこと!」


 究極の皮肉を投げつけられ、屈辱に顔を赤くした男子生徒は、コソコソと逃げ出したのだった。


「ありがとう、マリアンヌさん」


 ローランが庇っても睨みつけてくるだけだったアンリは、マリアンヌの助けに対しては素直に受け入れ、感謝の言葉を述べている。

 マリアンヌは首を横に振った。


「礼には及びませんわ。わたくし、自分では何の努力もしないくせに、人を批判する口だけは達者な人間が、一番許せませんの。さ、アンリ様、教室に戻りましょう」


 マリアンヌに促されると、アンリはいつになく柔らかく微笑んで頷いたのだった。


 ……アンリは女性が苦手なように見えるが、マリアンヌと話す時だけは、少しリラックスしている様子だった。

 実際、マリアンヌは気の良い少女だ。が。

 ローランとしては、アンリのことを知ったような口をきくのが、少しだけ気に食わない。


 そう、ローランには、アンリが一番意識している存在は自分だという自負がある。アンリのことを一番知っているのも、恐らく自分だとも考えていた。


 そして今。


 女性として人生を繰り返したアンリーーーリアーヌの側に、いつもひっついているマリアンヌのことを、ローランは内心、苦々しく思っている。


 しかし。


「マリアンヌさん」

「まあ、シャルトル様。どうなさいました?」


 話しかけてくるなんて珍しい、と顔に書いてある。マリアンヌは、ローランのことを特別扱いしない数少ない学生だ。


「少し君に相談したいことがあるんだ」


 そう告げると、マリアンヌは少し不審げな目つきで首を傾げた。普段、ローランが自分から話しかけることはないので無理もない。が、ローランが、


「リアーヌさんのことだけど」


と続けると、警戒心を解いたようだ。彼女は他のクラスメイトと同じく、ローランが級長として、右も左も分からない編入生に親切にすべきだと考えているようだ。


「俺と彼女の家が反目しあっているのは知っているかい?」


 尋ねると、マリアンヌは少し言いにくそうに答えた。


「正直に言いますと、シャルトル家の方が一方的に目の敵にしているように見受けられますわ」

「そうかもな」


 少し前まではシャルトル家の方が勢いがあったため、未だに世間一般ではシャルトル家の方が強いと思われがちだが、セネヴィル家は古くは王家に連なる歴史ある一族であり、現在でも定期的に王族の血を入れているため格が高い。そこにローランの両親は過剰なほどの劣等感を抱いている。


 マリアンヌはよく周囲を見ている、と感心した。


「だけど、そんな馬鹿らしいことは親の代で終わらせたい。リアーヌさんは尊敬できる女性だから」


 そう告げると、マリアンヌは嬉しそうにぽんと手を叩いた。


「まあ、それは素敵な志ですわ。つまりリアーヌとお友達になりたい、ということでしょう?」

「なれるだろうか?」


 少し不安げな表情を作ってみせると、マリアンヌはローランを力付けるように、胸の前でぐっと拳を握ってみせた。


「そういうことでしたら、わたくし、いつでも相談に乗りましてよ」


 にこにこと微笑む、リアーヌと最も仲の良い女友達。

 多分、彼女と親しくなることは、自分にとって不利ではない、と思う。

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