閑話1 私たちの乙女同盟
暖1の月の1日。
その日、ユミナの世界は一変した。
「リアーヌ・セネヴィルと申します」
フィリウス王立学園の始業の日に編入してきた一人の少女。その人は、ユミナの理想を体現したかのような人だった。
リアーヌ・セネヴィルと名乗った編入生は、ユミナが今まで見た誰よりも美しい少女だった。しかし、ユミナが彼女に対して最初に抱いた感想は「すごく綺麗な方」ではなく、
(か……かっこいい方……!)
というものだった。
とても中性的で、性別を超えた魅力が、そこにあった。言うなれば歌劇に頻繁に登場する男装の麗人に似た雰囲気を醸し出していた。
こういうことを言ってはいけないのかもしれないがーーその辺の男子生徒より格好いいのである。
実はユミナは、男子生徒というものが苦手だった。ちょっと体が大きくて、声も大きな男の子たち。自分とは違う世界の生き物のように見えてしまうのだ。
そんなユミナの前に流星の如く現れたリアーヌの、誰をもの視線を釘付けにする美少女だが、どことなく少年のような仕草をする姿。そのアンバランスさが彼女の魅力でーーユミナはたちまち、彼女に夢中になった。
(もちろん、あまり騒ぎすぎるとリアーヌのご迷惑になるから、こっそりとね)
ただし、学園の女神投票には、リアーヌに清き一票を投じた。
さて、学園には任意の同好会がいくつか設立されており、ユミナは文芸同好会に所属していた。数人で活動しているが、その中にローラン・シャルトルの元恋人であるスミアという少女もいる。
「ここだけの話なんですけど、ローラン様とは利害が一致しただけの関係だったんです」
スミアは一般クラスの生徒で、見た目は肉感的な美少女だ。そのせいで「遊んでいる」と軽く見て近づいてくる男子生徒に嫌気がさしていたらしい。
ローラン・シャルトルと出会ったきっかけも、そんなしつこい男子生徒に絡まれているところを助けてもらったことであり、その流れで、偽装恋人になったらしい。
「スミアは、シャルトル様に心動かされることはなかったのですか?」
ユミナは純粋に疑問に思う。ローラン・シャルトルは、才能と家柄、そして容姿に恵まれた紳士であり、彼に本気で恋している女子学生も多数、そんな理想を絵に描いたような男だ。心揺らぐ瞬間は皆無だったのだろうか、と。
しかしスミアはあっさり否定した。
「ないですねえ。ローラン様は紳士だけれど、誰も内面に踏み込ませなかい方ですしーーわたしが好きなのは、もっと線が細い感じなんです。クレマチス歌劇団の男装女優みたいな」
「分かります!」
ユミナはこくこくと頷いた。
「それに、こんなこと言ったら引かれそうですけどーーセネヴィル様が今、わたしの理想に一番近いんです」
学園の女神に一票入れてしまいました、とスミアがぽっと頬を赤らめる。
「分かります!!」
全力で同意する。ユミナはスミアの手をがしっと握りしめた。
そんなユミナとスミアの交流を、同好会の責任者であるキャロ教師が、暖かな目で「うんうん」と頷いている。
キャロ教師は文芸同好会の顧問であり同士だ。そして研究室の一角まで同好会のために確保してくれる、ユミナたちの良き理解者でもある。
「でも最近、一般クラスのローラン様ファンの一部の動きが、少し不穏なんです」
スミアに憂いを帯びた瞳で告げられ、ユミナはため息をついた。
「妙にセネヴィル様を敵視しているみたいですね」
先日の武闘大会の一幕を思い出す。異様な雰囲気の白い集団。リーダー格の勝気そうな美少女は、確かオルガという名前だった気がする。
「オルガさんとか、少し過激だからーー暴走しないといいですけど」
スミアが心配げに目を伏せる。
普通ならば、名門セネヴィル家の令嬢に喧嘩を売るなど、考えられないことだがーー恋は盲目である。
何にしても、リアーヌはまだ編入して間もないので、余計なことで思い煩わせたくない。
「でしたら私たちで、陰ながらリアーヌをお守りしましょう!」
「ええ!」
二人の心は硬く結ばれる。そんな二人を、キャロ教師がやはり温かい目で見守っている。
乙女同盟が成立した瞬間であった。
裏話はローラン視点、閑話はそれ以外の視点のお話です。
⭐キャロ先生も、もちろん乙女です⭐




