14-2
リアーヌは観念した。しかし言いたいことはある。
「そう、ですね、反論はできそうにありません……。でも、それが何?」
決して今までの淑女としての話し方は変えないまま短く問いかけると、ローランは首を傾げた。何を言われているのか分からないといった様子だ。そんな彼に、リアーヌは繰り返した。
「私は確かに、かつてアンリでした。でも、さっきも言いましたよね。その過去が現在と何の関係が?」
この世の中に、アンリは存在しない。それが唯一の事実である。かつてのローランにとって、アンリはやはり宿敵だったのだと思う。それなりに思うところがあるのだろう。
しかし、今のローランとリアーヌは、ただの同級生ーー友人という関係でしかない。
「さっきも言ったが、君は俺を避けていただろう?」
「当たり前だと思います」
リアーヌは、自分の手首を掴むローランの手を何とか外そうと奮闘しながら答える。
「アンリの最期を忘れたわけじゃないでしょう? かつてアンリだった私が、同じ道を歩まないように貴方と距離を取ろうとするのは、ごく自然な生存本能だと思う。そんな私の意思を尊重してくれても良かったんじゃないでしょうか?」
するとローランは微かに眉を顰め、反論した。
「避けたがっていたのは君だけだ。俺じゃない」
ずいっと詰め寄ってくる。ーーなぜ、こんなにしつこいのか分からないまま、正直な気持ちを述べた。
「私、貴方のことが苦手なんです」
「なぜ?」
なぜ? なぜと来たか。この野郎。
「さっきも言ったとおり私は貴方に殺さ……」
「先に俺に致命傷を負わせたのは君の方だ。俺は反撃しただけだろう?」
責めるような口調で更に続ける。
「俺は極力、君の意思を尊重したいと思ってはいる。が、君の意思を尊重したら、君に近付けないじゃないか」
「いやいや、私に近付く必要、なくない?」
思わず淑女の皮が剥がれた状態で突っ込んでしまった。
リアーヌはもう騎士を目指しているわけではなく、ローランをライバル視しているわけでもない。
また、セネヴィル家とシャルトル家の確執を考えると、リアーヌが先ほど言ったように、極力距離を取ろうとする方が、理に適っている。
「だいたい付き合いは長くても、アンリとローランは、そんなに親しくなかったはず。……どうして私のことがそんなに気になるのか、分かりません」
昔のように無謀に突っかかって行っているわけではない。ローランからすれば、今の人生のほうが煩わしさは少ないのではないか。
「そう、何故だろうな」
でも、と続けながら、ローランはリアーヌの長く艶やかな黒髪を一束、手に取ると、
「俺から逃げられると思うなら、君は相当甘いと思う」
と言った後、髪の束に軽く口づけた。
⭐︎
「?」
呆然としたまま、ふらふらと女子寮の自室に戻ってきたリアーヌは、机の前の椅子に座った後も、しばらく放心していた。
「??」
頭の中は、
「え、何で?」
と思わず独り言が漏れるほど、疑問符で埋め尽くされていた。
あの後、ローランの手を力任せに振り払って、逃げるように学習室から出て、一目散に寮に戻ってきて今に至る。
そしてまた、リアーヌの髪を掬い上げ、口づけるローランの動作を思い出し、頭は混乱の渦に巻き込まれる。リアーヌは思わず、机に突っ伏した。
彼は策略家であるが紳士だ。そして、いくら昔、男だったとはいえ、今のリアーヌは正真正銘の女性だ。
かつてのローランは、パートナーを頻繁に変えていたとはいえ、その時々の相手には誠実に接していたように記憶している。
つまり、パートナーでもない女性に気安く触れるような、浮薄な男ではなかったはずだ。
それなのに、あのような軽薄な行動だ。理解不能である。
(何で……?)
しかも口づけの後に見上げてくるぎらついた目は狩人のそれで、何か自分が獲物になったかのような錯覚に陥ったのだった。
ぐるぐると思考が空回りしている。ローランが何を考えているのか、さっぱり分からない。分からなさすぎて。
リアーヌは鞄の中の教科書を机の上にぶちまけた。取り敢えず。
(勉強しよ)
ローランのことなどに時間を割くから、こんなことになるのだ。
無心に試験勉強に励めば、そのうち、全て気にならなくなるだろう。そうに違いない、と自分に言い聞かせ、リアーヌは教科書を開いたのだった。
改めまして、皆さま、TS男女はお好きですか?
私は好きです!
さて、ここで前半終了となります。ここまで読んでくださったTS男女好きの皆さま、TSってよく分からないけど、何だかここまで読んじゃったよという方も、ありがとうございます!
そして何より、リアクション・評価・ブックマークをして下さった方々に、いつも励みにしていますと、この場を借りてお伝えさせてください!
ここからは後半になります。今後も、ヒーロー相手だとちょっとポンコツなTSヒロインと、ヒロイン相手だと、ちょっと(?)めんどくさいヒーローを暖かく見守っていただけると、とっても嬉しく思います。
TS男女好きさんが増えますように……!




