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その瞬間、額からぶわっと嫌な汗が噴き出した。
……しかし実のところ、やたら絡んでくるローランの様子に、その可能性を考えないでもなかった。
つまり、ローランもやり直しているのでは? という可能性だ。
しかし両親や周囲に、やり直している様子の人間が一人もいなかったから、やはり、繰り返しているのは自分だけだろうと油断していた。
(昔からローランにだけは、詰めが甘い)
が、最後まで足掻きたい。
「……何のことでしょう。私は少し勘違いしていたみたいです。似たようなお名前と間違ってしまいましたわ」
しらばっくれてみる。が、ローランはくすりと笑って一蹴した。
「アンリ。これは単なる決め手の中の一つでしかない。俺は総合的に、判断しているんだ」
ローランは断言した。その声は確信に満ちている。
しかしリアーヌは往生際悪く足掻く。
「いやいやいや。私はリアーヌという名前ですよ。それにアンリというのは男性のお名前ですよね。何か勘違いなさっているのでは?」
そう言いながら、とにかく撤退、撤退だと椅子から立ち上がろうとしたところ、ぐっと腕を掴まれた。相変わらず馬鹿力で、びくとも動かせなくなった。
「君が女性になっているのは少し不思議だが、瑣末なことだ」
ローランからは、絶対に引かないという強い意志を感じる。リアーヌは瞬時に方向性を変えてみた。
「私はアンリという人は知りませんって。それに……もし私がアンリだとしても、それが貴方に何の関係が?」
そう、もし自分がアンリだったとしても、今のローランには何の関係もないではないか。気にするだけ無駄ということだ。
「関係? 長い付き合いじゃないか」
「すみません、そのようなこと存じ上げません」
つんと顔を逸らすと、ローランは聞き分けのない子供を見るような目でリアーヌを見て、言った。
「つれないな。……一緒に死んだ深い仲だろう?」
同じ釜の飯を食った仲だろう? みたいな、すごく親しい友人のように言われ、とうとう堪忍袋の緒が切れた。
「何それ、心中したくてしたわけじゃないから!」
あっ、と思った時には、もう遅い。一度うかつにも口から飛び出した言葉は、引っ込めることはできないのだった。
リアーヌが、うっかり口を滑らせた瞬間、白騎士ローランは、それはそれは綺麗な笑顔を浮かべた。
「やっと観念してくれた」
「あ……う……」
言葉が出ない。しかし正直なところ、隠し通すのは無理だと感じていた。ローランは彼の言うとおり、自分なりに確信を持って攻めてきている。
そしてリアーヌには、それを打ち消すだけの辻褄の合わせ方を見つけられなかった。
そんなリアーヌに追い打ちをかけるよう、ローランは続けた。
「以前、コルトー先生と君が話しているのを立ち聞きした。試験をわざと間違えていると」
記憶を辿れば、確かにその頃からローランは自分に絡み始めてきた。いや、そんなことより。
「……聞き耳立ててるなんて最低」
「あんなところで話す君も、うかつだろう?」
リアーヌの非難など、そよ風のようなものだろう。彼は涼しげにいなして話を続けた。
「君がアンリだと仮定すると、君の行動の全てに説明がつく。若くして死んだ君は、当然、生き延びるために前回とは違う人生を歩もうとする。……俺も似たような部分もあるから、もっと早く気付くべきだったが、何しろ君は性別が違う。自分は、そのまま繰り返しているのに、君だけが姿形が変わっているなんて思いもしなかった」
考えが浅かったな、と自嘲気味に呟き、更に続けた。
「でも、君がアンリだという前提で見ると、今まで気付かなかったことが不思議なくらい、共通点がある。今、ここに書かれている字だってそうだ。前と変わらない、少し右上がりの、綺麗とまではいかないが丁寧な字だ」
「……」
字が同じだと、自分でも無意識すぎて気付かなかったことに、ローランが気付くことに驚きと……微かな恐怖を感じる。
「君の剣技にも、剣舞とはいえ、アンリと同じ剣筋で癖があった。……だからこそ、即席であそこまで合わせられた」
「……」
黙り込んだリアーヌに、ローランは微笑んでみせた。
「反論は聞かない。俺は確信しているから」




