13 君の名は
その日の朝も、嫌々ながらローランと登校していると、校門の前で担任のキャロ教師に捕まった。
「セネヴィルさん」
「キャロ先生。何か御用ですか?」
恐らく待ち構えていたのだろう。ワクワクした目で自分とローランの姿を見比べている。
……とても嫌な予感がした。
「二人で登校なんて、仲が良いのね。素晴らしいわ」
何だか鼻息も荒い。ーーろくな展開にならなさそうで無視したいところだが、それでも彼女は担任だ。邪険に扱うことはためらわれ、リアーヌは口を開いた。
「……たまたま寮の門の前で会っただけです」
「ふふっ、照れなくていいのよ」
この不服を隠そうともしていない顔を見て「照れている」と評するキャロ教師の視力が心配になる。
「貴女の成績、すごく伸びていて素晴らしかったわ。きっとシャルトルさんと一緒に勉強したからだと思うの!」
いえ、違います。私の弛まぬ努力の賜物です。
と言いたかったが、それを言うと鼻持ちならない感じがするので、ぐっと飲み込む。
「是非、これからもシャルトルさんと切磋琢磨していってね。はい、これ」
そう言って、キャロ教師はローランに何かを手渡した。何だろうと思っていると、手の中のものを確認したローランが、
「学習室の個室の鍵だな」
と言った。
「えっ」
学習室は、以前「これ以上自分に構ってくれるな」とローランに宣言した日から使っていない。何より、ローランと二人きりで学習室を使用するのは懲り懲りだ。
しかし、そんなリアーヌの事情を考慮してくれるキャロ教師ではなかった。
「前途洋々たる二人のために先生が取っておいたの。シャルトルさん。放課後にでも、セネヴィルさんに次の課題について教えてあげてね」
「あ、いや、その必要はもうないかと……」
鍵を突っ返したかったが、受け取ったのはローランだ。返そうにも返せない。それもキャロ教師の作戦のうちのような気がする。
「素敵よね。仇の家の若者たちの禁じられた恋。……くぅーっ、たぎるわぁ!」
「……」
そういえばキャロ教師は小説家志望だという話を聞いた。空想と現実を混同しないでほしい。
(いや、そういえば前の世界で、一部界隈で流行ってたって聞いてた小説の作者、キャロラインって名前だったな)
自分は読んだことはない。
が、アンリだった時、騎士になってしばらくして、気心の知れた侍女キリエがスヴェン領からの差し入れを持ってきてくれたことがあった。その際に、
「坊ちゃん。今ちまたで、一部のお嬢様方の間で密かに流行っている物語をご存知ですか? これです」
とにやにやしながら差し出してきた本が、その本だった。表題は「黒衣の騎士は聖なる騎士の腕に甘く囚われる」だったか。
タイトルを見た時点で、自分で読む気が全く起きなかったが、内容は知っておくべきかと思いキリエに問うと、
「めくるめく耽美なお話しでしたよ。ーー何故か、坊ちゃんとシャルトル家の次男の姿が頭に浮かびました」
という不穏な言葉が返ってきたのだった。
そんな過去のやり取りを思い出し、リアーヌは確信した。
(絶対あれ、キャロ先生だ)
ーーとそんな回想に耽っている間にも、
「じゃ! そういうわけで頑張ってね!」
とキャロ教師は機嫌良く立ち去っていった。そしてリアーヌは、ローランと二人で取り残される。
「せっかくの先生の好意を無碍にするわけにはいかないな。放課後に学習室に行こうか」
と妙に嬉しそうな声でローランが言った。彼は行く気満々である。
「一気に順位を上げて、先生方も君に期待しているんだよ」
やむなく友人になってしまったとはいえ、これ以上ローランと距離を詰めたくないのが本音だ。しかし、あまりに距離を取って、また木剣を持って追い立てられてはたまらない。
(まあ、一緒に勉強するくらいはいいか……)
と妥協することにした。




