12-2
翌朝。
「……………」
晴れ渡る青空の元、リアーヌは朝から頭を抱えていた。
今日から穏やかに登校できる、と心安らかに寮を出たのも束の間、昨日と変わらぬ光景が門の前に広がっていたからだ。
朝日を浴びてキラキラしているこの男は昨日、一体何を聞いていたのか。というか、分かったという返事を確かに聞いたのだが。
「おはよう」
何事もなかったかのように朝の挨拶を口ずさむローランの腕を引っ掴んで、人目に付かない木陰へ連行する。
「だーかーらー! 迎えに来るのは駄目だと言ったでしょう?」
「俺に恋人がいるから?」
「そう」
こくこくと頷くと、ローランはにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、問題は解決している」
「はい?」
全く悪びれた様子のないローランに、限りなく嫌な予感を抱いた。そして。
「別れたから」
「……はい??」
さらっと溢れ出た発言に、リアーヌの思考が停止する。
ん? ワカレタ? ……別れた??
「え、別れたって、いや、何で???」
ローランの行動、いや、思考が全く理解できないリアーヌは、思わず理由を聞いてみた。
「嫌な気持ちになるんだろう? ……リアーヌが」
「ぜんぜん違う!」
ーーろくな回答ではなかった。
何故リアーヌが嫌がるから別れるという選択に至るのか。理解不能だ。
「いや、嫌な気持ちになるのは、私じゃなくて貴方の恋人で、そこは彼女の方を優先するところでしょう!?」
道理を切々と説く。絶対に自分の感覚は、一般常識として間違っていないはずだ。しかしローランは難しい顔をして反論してきた。
「そもそも、彼女とはそういう関係じゃない」
「そういう関係じゃないって、どういうこと??」
「利害関係が一致していただけだ」
つまり男避け&女避けのための仮初の関係だったということか。リアーヌには未知の、大人な関係で、またもや負けたような気分に陥る。
「今までの相手だって、付き合って欲しいと言われたから付き合っていただけで、特別に相手を優先していたわけではない」
「あーはいはい。女の敵ですね。最低です」
アンリだった時は、モテる男に対する僻みがあって、彼の取っ替え引っ替えの恋愛事情を苦々しく思っていたが、今は女性として、彼を最低だと思った。
しかしローランは、不本意そうな顔でこう言い募った。
「そうは言うけどな。俺と付き合いたいという人間は、基本的に俺のことを見ていない。見ているのは顔と家柄と資金力だろう?」
そう告げたローランの表情には、どこか皮肉の色が宿っている。本気で、そう思っているらしい。リアーヌは、首を横に振った。
「いや、性格も見てると思いますけど? 貴方は女性に優しいもの。優しくて顔が良くて家柄も良くてお金もある。好きになっても仕方ないと思う」
「……君はそうじゃないようだけどな」
「………」
何故、私が貴方のことを好きにならなきゃいけないんでしょうか。理解に苦しみます。ーーーという本音はとりあえず胸の奥に仕舞い込んで、
「私が言っているのは一般論です」
と捕捉した。一方でローランは苦い表情だ。
「俺が優しく見えるのは、そう振る舞っているからだ。君の言う一般的な女性たちが、俺の本質を知っても同じように思うのか、疑問だな」
相手の本質の全てを知ることなんて、不可能ではないか。現にリアーヌは、前回の人生を含めると長い付き合いであるローランのことが、未だに理解できていない。
「そう? 誰にでも優しくて格好いい男の子が、自分だけに素顔を見せてくれるっていうのは、結構ときめくと思いますけど」
いや、どうして自分はローランに恋愛談義のようなものをしているのだろうか。何もかも分からない。
「でも、君は俺のことを見て、俺の本質を知っているだろう?」
何の話だろう。考える。
リアーヌの記憶は過去と現在が混在しているため、時々、判別が付かなくなる。ローランと接している時は特にその傾向が強いため、変なことを口走るヤツと思われないよう、慎重に考える。
これは多分、武闘大会の出来事を指しているのだろう。誰にでも優しく紳士なローランが、殺人鬼もかくやというほど生き生きと女であるリアーヌに攻撃してきた、あの件だ。
「君だけが知っている俺の素顔だ。ときめかないのか?」
「何故、私がときめかないといけないんですかね」
あれでときめく女性がいたら、お目にかかりたいものだ。
「私は貴方の本質なんて知りませんけど、か弱い女の子相手に全力で打ち掛かってくるような好戦的で戦闘狂な人は、私はご遠慮したいな」
自分の意見を毅然と告げると、何故かにっこりと微笑まれた。
…………怖かった。




