12 宿敵と恋愛談義
窓からちらちらと、教室の中を覗く視線を感じる。
そういうことは今までにもあったが、しかしその視線は全て、ローランに向けられたものだった。
しかし、今日は明らかに自分が見られていた。ーー主に女生徒に。
そして目が合うと「きゃっ」と赤くなって頰に手を当てて駆け去って行く者も多数。可愛らしいとは思うが。
(私は珍獣かな)
そんな落ち着かない一日を過ごした放課後、教師のコルトーから呼び出しがかかった。
コルトーの研究室を訪れると、彼は開口一番、
「お前、シャルトルと登校してきたんだってな」
と切り出した。
「なんで知って……」
と言いかけて、やめた。ローランは有名人だ。些細なことでも、彼の情報はあっという間に学内を駆け巡る。教師であるコルトーも例外ではない。
リアーヌは椅子に座りながら溜め息をついた。
「……珍しい特別クラスの編入生に親切にしてるだけだよ。級長なんだし」
「まあ、そうだろうがな」
ローランが自分に個人的な興味を持つはずがない。それはコルトーも同じ認識で、あっさりと頷いた。
しかしコルトーは、だがな、と話を続けた。
「シャルトル家の次男と円滑な人間関係を築くのは悪くないが、恨みを買うようなことにならないよう、気をつけろ」
「というと?」
「あいつ、女がいるだろう?」
「あ、そうなんだ」
あまりローランの交友関係を気にしていなかったので、知らなかった。が、とても有用な情報だった。
彼女の名もしっかりと聞いておいた。そして拳を握りしめた。
(これで口実ができる……!)
彼女がいるのに他の女性と過ごす時間が長いことは、一般的に誠実とは言いがたい行動だ。
恋人なら「他の女の子に構うのはやめて欲しい」と思うのが普通の感覚だろうが、何せ相手は競争率の高いローランだ。
せっかく捕まえた相手に、苦言を呈して嫌われることを危惧し、何も言えずにいるのかもしれない。
その点、リアーヌは、ローランから何と思われても平気である。むしろ嫌われたい。
(そんな私が、ちゃんと注意してあげないとね)
やる気に満ちたリアーヌは、再びぐっと拳を握りしめたのだった。
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レノーが廊下を歩いていると、妙に浮かれた様子のリアーヌ・セネヴィルに出くわした。
「セネヴィルさん、何だかご機嫌だね?」
声をかけると、彼女ははっと我に返り、きりっとした表情を作る。
「まあ、フォートリエ様。ごきげんよう」
浮かれて緩んでいた頬を引き締めた表情を見ると、さすがセネヴィル家の娘といったところで、凛々しく、そして気品と美しさに溢れていた。
そんな彼女は、いつもはレノーのことをローランとひと括りにしており、敬遠して近づいてこないのだが、
「ちょうど良かった。一つ、フォートリエ様にお尋ねしたいことがありまして」
と珍しく声をかけてきた。
「? 何だろう? 俺に分かることならいいけど」
と答えると、リアーヌは少し声をひそめて、こう言った。
「ローラン様には彼女がいらっしゃいますよね?」
「そうだけど……」
それは、男避けと女避けの利害が一致した偽装カップルだと、ローランに代わって説明しておこうとしたが、彼女はぱあっと表情を晴らし、
「そう、そうですよね。恋人がいるんですよね! 私、ちゃんと分かってますから!!」
と言ってレノーの手を握ってぶんぶんと振ったのち、
「それでは、ごきげんよう、フォートリエ様」
とレノーの補足を聞くこともなく、足取りも軽やかに去っていったのだった。嵐のようである。
(……どうしよう)
誤解したまま行ってしまった。
が、まあ、必要ならローランが改めて説明するだろう。わざわざ追いかける必要はないな、と判断したレノーだった。
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翌朝。
リアーヌは、当然のように門の前で待ち構えていたローランに、早速切り出した。
「ローラン、貴方には確かお付き合いしている方がいますよね」
「いるけど?」
それがどうした、と悪びれる様子のない態度に、頭が痛くなる。演技でも何でもなく、本当に、リアーヌに時間を割く自分の行動が問題あるもの、という認識がないのだろう。
(きっと、いつも好かれる立場だから、好きになる方の気持ちが分からないんだろう)
相手に嫌われたくない、という感情を抱いたことがないのかもしれない。
総じて。
(この男のどこがいいんだろ?)
リアーヌには理解できない。
(っていうか、今の彼女って……)
以前、コルトーからローランの彼女の名を聞いていたので、その姿を思い浮かべる。綺麗で肉感的な一般クラスの女性だ。学園で一、二位を争う美女で、男子生徒の人気も高く、さっぱりした気質で性格も悪くない。
そんな素敵な恋人がいるのに、登校のたびにリアーヌを待つローランは、不誠実だと思う。ビシッと言ってやろう。
「付き合っている人がいるのに、他の女性を迎えに来たら駄目だと思います」
「なぜ?」
心底意味が分からないといった表情をするローランに対して、リアーヌもまた、心底意味が分からない。
「嫌な気持ちになるでしょう?」
普通の感覚ならば、自分の彼氏が他の女性と親しくしている事実を苦々しく思うはずだ。少なくとも、リアーヌが彼女の立場だったならば気になる。
「そうなのか?」
「そうなんです」
即答すると、ローランは難しい顔で少し考え込んでいた。
(いや、そんな難しい顔をして考え込むことでもないと思うけど)
解決策は単純明快だ。明日からリアーヌを迎えに来なければ良い。
「分かった。友人の君の忠告は聞き入れよう」
あっさりと理解してくれて、拍子抜けしたが、これできっと明日からは迎えに来ないだろうと胸を撫で下ろしたリアーヌだった。




