11-2
少なくとも表面上は完璧な次男のローランと違って、長男ドミニクは正真正銘、ろくでもない男だった。
甘やかされて我儘。家の威光と財力を盾にやりたい放題の行動が目に余る。社交界での評判も芳しくない。
両親も似たような性質なせいか長男を猫可愛がりしており、一方で優秀すぎるローランのことは疎ましく思っているようだった。
しかしながら、毒婦アンジェラの失脚により地に落ち気味のシャルトル家の信用は、ローランの存在によって何とか保たれている状況だ。
だからこそ両親も、輝かしいローランの存在に価値を見出しているはずだ。そのローランが、セネヴィル家の娘と懇意にすることを、彼らは認めないはずだ。
しかし。
「俺が友人を作るのに、親の許可が必要か?」
ローランは心底嫌そうに顔をしかめた。
その反応に、リアーヌはおや、と思う。
以前のローランは乗り気ではないものの、家の意向に忠実だったように思う。今のローランも、学年上位を維持していることから、ある程度は家の意向に従っていると思っていたのだが。
(まあ、おかしくはないか……)
以前とは社会情勢が違う。親の力が弱まっているこの世界で、何が悲しくて足を引っ張るだけの生家に遠慮する必要があるだろうか。
(むしろ縁を切りたいまであるな)
ローランは才能豊かな人間だ。シャルトル家の名がなくとも、自分の未来を切り開いていけるだろう。彼には、それだけの力がある。
「俺は個人として、君と友達になりたいだけだ」
「はあ……よく分かりません」
そんな不毛な会話を交わしながらの登校の途中で、担任のキャロ教師と会った。
彼女はリアーヌとローランが並んでいる姿を見ると、両手を組み目をキラキラ輝かせ、うんうんと何度も頷いていた。
⭐︎
教室に入ると、待ち構えていたらしきマリアンヌが、リアーヌの隣の席ーーーつまりローランの席であるーーーを陣取った。席を奪われたローランが困ったように立ちすくんでいたが、マリアンヌは気にする様子もない。
(強い……!)
こういうローランに対しても物怖じも特別扱いしないところも、リアーヌがマリアンヌを気に入っている部分の一つである。
「おはようございます」
とリアーヌが挨拶をして席に着くなり、
「おはようございます、リアーヌ。武闘大会、とっても格好よかったですわ! お強いのね」
と彼女はきらきら目を輝かせ、リアーヌの手を取った。副級長のユミナも、にこにこしながらやってきて、
「とても凛々しくて素敵でした。来年は正式に出場されては?」
と声をかけてくれた。リアーヌは、しおらしい態度ではにかんでみせる。
「あれは演舞というもので、シャルトル様が合わせてくださったのですよ。本気で試合をしましたら、一瞬で負けていたところです」
「でも、キレのある動きで綺麗でした。私、目を離せなくなってしまって」
演舞のことを思い出したのだろう、ユミナはうっとりした瞳で見つめてきた。何かの本で読んだが、この年頃の少女は、かっこいい女性に憧れを抱きやすいらしい。
「これでも黒騎士の家系の一人娘ですから。基礎的な剣技や演舞は叩き込まれました」
セネヴィル家の名を出すと、皆、すぐに納得してくれた。
「ああ、でもシャルトル様と息がぴったりでしたね」
「本当に。即席で合わせたとは思えませんわーーって、どうなさいましたの、リアーヌ? ちょっとお顔が怖いですわ」
どうやら盛大に顔を顰めていたらしい。リアーヌは慌てて取り繕う。
「私とシャルトル様が息ぴったりだなんて、おこがましくて……」
するとユミナが、ぐっと前のめりになって、
「そんなことありません! リアーヌはシャルトル様に負けていなかったと思いますよ。現に、たくさんの女生徒がうっとりしてリアーヌさんを見ていましたもの!」
と力説してきた。それに対して、マリアンヌが面白そうに合いの手を入れてくる。
「来年の学園の女神の座も堅いですね」
「う……もう勘弁してください」
リアーヌは目立たず騒がず、静かで落ち着いた学園生活を送りたいのだ。
ーーーーもう、無理かもしれないが。




