11 宿敵と友達になりました
朝起きて、リアーヌはまず頬を力一杯つねった。
(痛い……)
その事実を受け入れられず、暦に目を走らせる。今日は暑3の月15日。武闘大会の翌日だ。
(夢じゃなかった)
あの一連の濃い出来事は、全て現実ということである。
(私がローランと友達になるなんて、何の冗談??)
友達になったというよりは、無理矢理させられた、という表現の方が正しいだろうが。
「はぁ……」
ため息を零す。ローランのこともだが、昨日の目立った行動により学園の生徒から注目を浴びたのは必至で、朝から気が重かった。
それでも気力を奮い立たせ、いつもどおりに身支度をして朝食を摂り、登校しようと寮のエントランスを抜けると、何故か門の付近で生徒が滞留していた。
(ん? 何だろう??)
立ち止まるわけではないが、何か門の付近に気になるものがあるのか、歩みが遅い。
ふと何気なく振り向いた女生徒が、リアーヌの姿を認めると、あっというように手を口元に当てた。
ーー果てしなく、嫌な予感がした。
リアーヌがエントランスに近付くと、
「おはよう」
と声をかけられた。
「……」
周囲の反応から覚悟はしていたが、やはり門の前にはローランが立っていた。金の髪が朝日に照らされ、無駄に爽やかにきらきらしていた。
何が悲しくて、朝一から宿敵の顔を見なければならないのか。そっと視線を逸らすが、
「おはよう、セネヴィルさん」
と名指しされ、返事をしなければ延々と繰り返されそうな勢いだったので観念して、
「おはようございます……」
と嫌々ながら挨拶を返した。そして、ろくな回答は得られないだろうな、と思いつつ、一応、聞いてみる。
「なぜシャルトル様がここにいるのか、理解できないのですが」
「友人だから」
「……」
理由になっていなかった。
「いや、でも学園で顔を合わせるでしょう? わざわざ、ここまで迎えに来なくていいですって」
「俺が迎えに行きたかったんだ。友人だから」
……何でも「友人だから」の一言で済ませようという魂胆が丸見えだ。お前、頭がいいんだから、もっとバリエーション考えておけよ、と思った。
「あと、俺たちは友人なんだから、俺のことはローランと呼んでほしい。君のこともリアーヌと呼ぶから」
勝手に呼ぶな! と言いたかったが、敗者に反論する権利などない。だいたい一体、何を考えているのか。昨日のやりとりから、嫌がらせとも少し違うような気がしていた。
(珍獣を珍しがるような心理なのかも。色々言わなくても、そのうち勝手に飽きるだろう)
そう結論づけ、諦めた。
あまりグズグズしていると遅刻してしまう。リアーヌが歩き出すと、ローランは真横にぴったりとくっついてきた。近い。
「そもそもの話をしていいでしょうか?」
「君から話を振ってくれるのは初めてだな。喜んで」
リアーヌは、ローランから距離を取りつつ続けた。
「前も少し言いましたけど……私と友達になって本当にいいの?」
「何故?」
「しつこく繰り返して申し訳ないのですけど……貴方の家のシャルトル家は、私の家を敵視してると思いますが……。セネヴィル家の私と友人だなんて、良い顔をしないと思います」
自分の利益になる相手とだけ付き合うべきだ。貧乏人との付き合いなど無駄だ。
シャルトル一族は、そんな極めて利己的な考え方の持ち主たちなので、セネヴィル家の人間と交流を深めるなど、もっての外だろう。
(あの家の中では、ローランだけが少し異質なんだよね……)
ローランは次男であるため、シャルトル家の跡取り息子は他にいる。
悪名高きドミニク・シャルトルだ。




