10-3
男ではないリアーヌは、どうしても筋力では男であるローランには劣る。真っ向勝負で打ち合うのは下策だ。
幸いにしてリアーヌは、アンリであった時より魔力に恵まれており、それを駆使して、男と遜色なく戦う術を知ってはいた。
しかしローラン相手に通用するかといえば、答えは否だ。彼は誰よりも敏捷で、誰より力が強く、そして誰よりも戦いが上手い。
彼より強い人間を、リアーヌは見たことがなかった。
「はっ」
裂帛の気合いを発したローランの打ち込みを木刀で受ける。魔法で衝撃を逸らしてもなお、その一撃は鋭かった。
「……っ!」
手が痺れる。
続け様にもう一撃。一本一本が重い。すらりとした見た目に反して馬鹿力だ。
(勝てる気がしない!)
眉目秀麗、品行方正、お婿さんにしたい学生第一位。それが今、か弱い女生徒相手に木剣をぶん回している。
(みんな、騙されてる)
嬉々として木剣を振るうローランは、白騎士というよりは、魔王だ。
ほとんど避けているだけなのに、少しずつ息が上がってくる。
体力も限界だが、何より魔力が持たない。
(魔力を貯蔵する魔道具があれば)
魔道具は高価だ。騎士として俸給があった頃は購入できたが、学生でしかない今の自分が家の力なしに贖える類のものではない。
やがて。
「くっ……!」
握力が尽き、とうとう木刀が弾かれた。と同時に、喉元に木剣の先を突き付けられる。
「俺の勝ち、だな」
勝利を宣言したローランの、息すら上がっていない涼しげな立ち姿は、憎らしいほどに精悍で、まさに白騎士と称されるに相応しかった。
そして彼は、何故か嬉しそうに微笑んだ。
「今日から君は、俺の友人だ」
……相手に木剣の先を突き付けながら言う台詞じゃない。
しかし、勝負に負けたリアーヌに、拒否権など存在しなかった。ただ、純粋に湧き上がる疑問が口をついて出て来る。
「何故、私と友達になりたいのか、分かりません」
「友人じゃないと話しかけてはいけないんだろう?」
即座に答えが返って来る。そしてリアーヌは悟った。あの時、拒絶が過ぎてしまったのだ、と。
適切な距離というのは、ほどほどの距離、つまり適度な交流も必要だったのだと学んだリアーヌだった。
ーー今更知っても手遅れだけれど。
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マリアンヌは、リアーヌと共に武闘大会を観戦するはずだったが、思いもよらない展開により予定が狂い、近くにいたユミナを捕まえて、一緒に観戦していた。
飛び入り参加したリアーヌの、その身のこなしの美しさに目を奪われ、
(さすがは騎士の名門セネヴィル家の御息女ですわ)
と感嘆のため息をついたのも束の間、ローランの女神への口づけのくだりで、その余韻は台無しになった。というのも、会場の前方を陣取っている異様な一団のせいだ。
「なによ、あれ」
白い一団が敵意の眼差しでリアーヌを見つめている。非公式のローラン親衛隊である彼女たちは、中心人物らしい、やたら胸の辺りの発育が良い美少女の周りに集まって、口々に叫んでいる。
「なんで、あんな中途編入者がローラン様の口づけを受けるの!?」
「本当ね、オルガさん。新入りのくせに、ちょっと生意気だわ」
「一度、シメましょうか」
どうやら中心人物はオルガという生徒らしい。そんな彼女らの会話を盗み聞きながら、
(シメる? リアーヌを??)
と内心、首を傾げる。リアーヌのあの洗練された動きを見たうえで、そんなことができると本気で思っているのだろうか、彼女たちは。
どちらにしても、こんな外部の観客がいる前で話す内容ではない。王立学園の生徒の品位が疑われると思い、諌めるべく前へ一歩踏み出した。が。
「物騒なことをお話しされていますね」
先を越されてしまった。ユミナである。
「どう考えても、リアーヌはシャルトル様の口づけを受けないために、乱入しただけでしょう? 文句があるなら、シャルトル様に言うべきで、リアーヌに当たるのは筋違いです」
ユミナはおとなしいが、それでも特別クラスの副級長だ。成績優秀なうえ大臣の娘であるため、一般クラスの生徒からも一目置かれている存在である。
オルガという女生徒が、忌々しげな顔でユミナを見たが、
「ちょっと顔がいいだけのくせに」
とリアーヌに対する捨て台詞を吐き、取り巻きを引き連れて去っていった。
一団を追い払ったユミナはため息をつき、
「全く困った方たちですね」
と苦笑する。マリアンヌも肩をすくめた。
「本当に。ちょっと過激すぎですわ」
もし彼女たちがこの武闘大会の一件を見て、リアーヌをただ容姿が美しいだけと評するなら、目が腐っている。あの咄嗟の行動は、名門セネヴィル家の継子として、弛まぬ鍛錬を重ねているからこそ、できたことだ。
(寮のお部屋で鍛錬しているのかしら??)
何にしても。
明日、リアーヌに会ったら、真っ先に武闘大会の感想を伝えようと思ったマリアンヌだった。
少し文字数が増えてきたところですが、TS男女好きのみなさまには、少しでも楽しんでいただけているでしょうか?
また、TSにはそんな興味がなかったけど、何だかうっかり、ここまで読み進めてしまったという方にも、TS男女、可愛いかもって思っていただけたら嬉しいです!
TS男女が好きな方が、少しでも増えますように……!




