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そんなことを言われても、リアーヌが学園の女神になったことは、不可抗力であるので、責められても困ってしまう。
……というか、ローランは何故、こんなに不満げなのだろうか。
「それに君は、俺に近寄るなと言っておきながら、他の男には気安く触らせたり、肩を組ませているだろう?」
「え?」
……そのようなこと、した覚えがないのだが。
思い当たることがなく、リアーヌが首を捻っていると、
「……試験の結果」
とローランがぼそりと呟いた。
そして、思い出す。どうしても首席になれない同級生を慰めた、あの時のことか。
「え、いや、あれは触ったとか触らせたとか、そういうのじゃないですから」
あの場面のどこに、男女の匂いを感じさせる部分があったのだろう。謎だ。
「それに、私がどんな殿方と仲良くなっても、貴方には関係ないと思います」
このうえない正論を突きつけると、すっと周囲の空気が冷たくなった。
「そうかもしれないな。でもーーー俺も理由なく嫌われるのは、辛い」
彼は視線を下に向け「だからさ」と俯いたまま続け……リアーヌは咄嗟に殺気を感じ、その場から飛び退いた。自分がいた場所に何かが高速で通り過ぎた。
それは、リアーヌの真後ろの壁に当たって、下に落ちる。
(木刀………?)
いつの間にか、ローランが木剣を握っていた。
そして、いつの間にか……人気のない、そして開けた場所に自分たちがいることに気付いた。南北の壁がない半ピロティ構造の建物だ。
(今、改修中の訓練場だ)
追いかけられている間に、この場所に誘導されていたということか。
いつも、この辺には立ち入り禁止の紐が張り巡らされていたはずだが、頭に血が上りすぎて気づかなかったのだろうか?
リアーヌの混乱をよそに、
「セネヴィルさん」
とローランは息を呑むほど綺麗に笑って、
「俺が勝ったら、友達になって」
と言うなり、木剣で打ち込んできた。……一切の加減なく。
咄嗟に後方に飛び退って躱したが、木剣がびゅんと風を切る音の重さが、全力で振るわれたことを意味していた。舞踏大会の時の一薙ぎなんて、これに比べたらそよ風のようなものだ。
(ひっ……)
ローランは薄く笑った。
「流石は黒騎士の家系セネヴィルの一人娘だな。この攻撃を躱せるとは」
まるで悪役のような台詞である。それを聞いてリアーヌは、
「はあぁ!?」
と思わず叫んだ。
どう考えても、練習用に打ち込んできたというような力加減ではない。頭に命中すれば、脳天かち割られても、おかしくなかった。というか。
「いや、おかしいよ!?」
動転して取り繕った口調が崩れる。
「私に何のメリットもないんだけど!?」
必死の訴えに、ローランは、
「そう……だな。決闘には条件が必要だな」
と呟き少し考えてーーさらりと条件を投げてきた。
「君が勝ったら、一生、君に話しかけないし近寄らないと誓う」
一見、すごくいい条件に見えるが、リアーヌは知っている。この男の強さは尋常じゃない。それはいわゆる「天賦の才能」の域だ。
と考えている間にも、ローランの斬撃が飛んでくる。先と同様、容赦ない一撃だ。間一髪で避けたリアーヌのこめかみに、嫌な汗が流れた。
(ってか、当たったら死ぬって!)
武闘大会の際は、白騎士と称される紳士ローランは、公衆の面前で女性を叩きのめすことはないだろうと確信していた。しかし今、ここには人の目はない。
(え、私、もしかして殺される?)
いくら何でも、学園内でそのようなことはないと信じたいがーーーもしかすると、完膚なきまでにぶちのめされる、くらいはあるのかもしれない。
(防御くらいはしないと!)
リアーヌが、最初に投げられ床に落ちた木刀を手に取ると、ローランが満足そうに唇の端を上げた。
「さあ、始めようか」




