2 黒騎士アンリと白騎士ローラン
「皆さんもすでにご存知のとおり、ここフィリウス王国はクライン・フィリウス騎士王が建国した、騎士の国です」
高度な教育機関であるこの学園では、始業式の日からみっちりと講義が詰まっている。
早速始まった一限目の歴史の授業を聞きながら、リアーヌはふと自分の前身に思いを馳せる。
この国は軍事国家だ。そのため周辺諸国における一般的な貴族制度とは異なり、騎士であること、もしくはあったことこそが名誉であり、騎士として働いた経験があることが、国の要職に就くことができる絶対条件だ。
黒騎士アンリは、フィリウス王国の辺境スヴェン領を治めるセネヴィル家の一人息子だった。対するローランは王都近くのセムリタ領を治めるシャルトル家の次男である。
どちらも由緒正しき騎士の名門であると同時に、派閥が異なる政敵だった。
正妃に近く、正妃の子である第二王子を擁するセネヴィル家。
対するシャルトル家は第二夫人と近く、その息子である第一王子を擁していた。
そして二人の王子ーーいや、その生母が激しく王位継承権で争っていたため、自ずと両家は敵対関係になる。
ーーーしかし。
現実には、この両家には天と地ほどの財力差があった。
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「やっぱり時代はシャルトル家だよな」
「セネヴィル家は落ちぶれてるからなぁ」
アンリだった頃、何度聞いた言葉だろう。しかし、それは紛うことなき現実だった。
富も名声もあるシャルトル家に比べ、当時のセネヴィル家は困窮しており、由緒と名声しか残っていない貧乏地方領主だったからだ。それもこれも。
(第二夫人の毒婦アンジェラが王を唆して、国からの防衛費の補助金を打ち切らせたせいだ)
海、そして他国二国と国境を接するスヴェン領は、必然的に国家防衛の義務を担うことになり、常に多額の防衛費を要した。これは本来、国家予算で負担すべき費用だ。
しかし国から補助金が下りないからといって、防衛を怠るわけにはいかない。結果、財政が逼迫することになる。
アンリ個人としては、王都から少し離れた領地で、身の丈に合った暮らしをする日々は、決して悪いものではなかった。が、もどかしかった。両親は国家予算に頼らない領地改革を試みているようだったが、一朝一夕に成果が生まれるものではない。
そこでアンリは考えた。
(騎士になり国の要職に就けば、十分な俸給を受けることができるし、領地の防衛費の窮乏を訴えることもできる)
騎士は、十代から三十代にかけて、七年の間、王城にて奉公することが通常だ。
両親の助けになりたくて、領主を継ぐ前に騎士として奉公すると告げた時、しかし両親は諸手を上げて賛成はしてくれなかった。
「確かにセネヴィル家は由緒ある騎士の家系だ。だが国家防衛の務めを放棄し、我が領地を蔑ろにする王家のために、お前が命を捧げる必要はないよ」
という父親の言葉から分かるとおり、ありがたくも、両親はアンリを心から愛してくれていた。だから、第一王子派と第二王子派で醜い権力闘争をしている政情で騎士になる危険性を憂慮し、アンリを政争から遠ざけようとしてくれていた。
その心遣いは嬉しい。しかし。
「ですが、ここで俺が領地に引っ込んでいたら、シャルトル家と第一王子の陣営からセネヴィル家は腰抜けと侮られる。我が一族の名誉のため、俺は王城へ行きます」
渋る両親を何とか説得して、アンリは十二歳の時、剣と魔法そして高等教育を受けることができる騎士の登竜門フィリウス王立学園に入学することになった。
そこでーーー宿敵ローラン・シャルトルと出会ったのである。




