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午後の昼休憩の時間になり、名前同士で気さくに呼び合うこととなったマリアンヌから早速、
「リアーヌ、食事はどうなさいます? 良ければ食堂へ案内しますわ」
と誘われたので、喜んで食堂へ向かおうとしたところで、
「セネヴィルさん」
とローランに声をかけられた。話しかけてくるなよクソが、と思ったが応じないわけにはいかない。
「はい、何でしょう」
令嬢らしく品良く、柔らかに微笑んで応じると、相手も社交辞令的に微笑みを返してきた。
「朝に担任から紹介があった、級長のローラン・シャルトルだ。この学園のことで分からないことがあったら、何でも聞いてくれ」
なるほど、級長として指名があったから義務として声をかけてきたんだな、さすがソツのない男、と思いつつ、
「ありがとうございます」
と答えると、ローランは少し困ったように首を傾げた。
「ただ、君は女性だから、男の俺では気が利かない部分もあると思う。副級長のユミナさんは女性だから、きっと俺より君に寄り添えると思うよ」
とても回りくどい表現だが、つまり同性の副級長がいるから、あまり自分に声をかけてくれるな、ということだろう。
牽制された、と思った。
(あれですかね、俺に惚れられたら困るってやつですかね)
けっと鼻白みながらも、賢明な行動だとも思う。ローランは女性の関心を惹きつける全ての要素を持っているため、一目惚れされることなど、日常茶飯事だろう。が、学園生活、それも特別クラスという狭い世界の中で惚れた腫れたとなるのは、何かと面倒であることは理解できる。
(前回のローランも、特別クラスの女の子とは付き合ってなかったな)
かつてのローランは、十三くらいの年から常に、女性が尽きたところを見たことがなかった。が、学生時代の頃は、必ず一般クラスの女生徒が相手だった。その辺は弁えているのだろう。
「ありがとうございます。ユミナさんに色々お尋ねしますね」
間違ってもお前に惚れたりなんかしないよ、ふざけんな、と内心毒づきながらながら、にこやかに答えた。
ーーーーーーーーーー
「なあ」
特別クラスの学生の一人、レノー•フォートリエは隣の席の友人ローランに小声で話しかけた。
「お前、セネヴィル家にあんなお嬢さんがいたって知ってた?」
思いもがけない特別クラスの編入生ーーしかも、とんでもない美少女の登場に、クラス中が浮き足立っている。
癖のない絹のような長い黒髪と少し青みがかった黒曜石のような瞳。これ以上ない完璧な造作の美しい顔立ちだが、どことなくあどけなさを感じさせ、親しみやすさを醸し出している。
セネヴィル家は、フィリウス王国の辺境スヴェン領を守る名門だが、一時期の醜い権力闘争に嫌気がさした現当主が領地に引き篭もってしまい、動向が窺いにくくなっていた。
しかしシャルトル家なら何か知っているのでは? と思って尋ねてみたのだが、
「セネヴィル家は一人、子を授かったが、すぐに病死したという話しか聞いていない」
とレノーと変わらない情報しか持っていなかった。
よくもまあ、隠しおおせたものだと思う。辺境では病弱に生まれた赤子を「死んだもの」として隠して育てる風習があるという話を聞いたことがあるが、その類だろうか。
レノーは編入生の境遇が色々と気になるところだが。
「彼女がどんな境遇であろうと、俺には関係ないな」
ローランの反応はそっけないものだった。彼は軽く肩をすくめる。
「向こうだってそうだろう? 彼女はセネヴィル家の娘だ。シャルトル家の俺に必要以上に構われたら迷惑だろう」
さすがはローラン・シャルトルだと、レノーは感慨を覚える。
あの編入生の美貌は、ちょっとどころではなく目を惹く類のもので、美形を見慣れているレノーですら、一瞬息を呑んだくらいだ。ローランだとて、彼女がとてつもなく美しいことは認識したはずだ。
しかしローランは彼女の美貌に全く興味がないようで、むしろ迷惑げである。
ちなみにローランには現在、一般クラスにパートナーがいるが、それが単なる「女避け」にすぎないことをレノーは知っている。相手の女性も、豊満な美少女であるがために、ひっきりなしに男性から交際を申し込まれるのを鬱陶しく思い「男避け」としてローランを利用している。そんなドライな関係だ。
確かにローランが一人の女性に入れあげる姿など、想像もできない。
(それはそれで心配なんだよな)
この全てにおいて完璧な男が、慌てふためいたり悲しんだり怒ったりーー心の底から楽しんだり喜んだりしている姿を、レノーは見たことがなかった。
(一回くらい見てみたい気もするけどな)
そんな日は、永遠に来なさそうだ。
ーーそれにしても。
レノーはもう一度、編入生の姿を盗み見る。
(なんかあの子、妙に女っぽくないんだよなぁ)
現に、彼女の周りを取り囲む人垣のほとんどは女子だった。みな、花形の男装の舞台女優を見るような憧れの瞳で見ていた。
まあ、何にせよ。
(クラスに新しい風が吹くのは、いいことだよな)
レノーは、編入生の存在を好意的に受け止めたのだった。




