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(絶対に合わせてくれるはず)
紳士の仮面を被っているローランは、公衆の面前で女性を叩きのめすような真似は、流石にしないだろう。
…………しないと思いたい。
前回の死に際の思い出があるため、少し自信が揺らぐリアーヌであった。
何にしても、リアーヌの計画どおりに進めば、観客もすぐに演舞だと気付き、一種の余興と受け入れてくれるはずだ。
一歩、足を踏み出す。地面を擦るような演舞特有の足捌きだ。すぐにローランは舞散演舞だと気付いた様子で、彼は同じく擦るようにして、一歩足を引いた。リアーヌの思惑が彼に届いたということだ。
また、即座に自分が「敗者」側の役割だと気づくのは流石である。
(舞散演舞か……これは私の方が得意だったな)
敗者側の演舞は、アンリの得意とするところだった。……常にローランに負け続ける敗者の人生を送っていたせいかもしれない。
(くっ……)
そんな自虐的なことを考え、うっかり精神的自傷ダメージを喰らいつつも、丁寧に体を動かす。
打ち合っては引き、間合いを測るため円を描くように動く。美しく見せるための演舞なので無駄な動きも多々ある。くるりと一回転すると、制服の裾が綺麗に翻った。
演舞とはいえローランと剣を合わせるのは何年ぶりだろう。付き合いだけは長く、彼の癖を知り尽くしているため、とても動きやすかった。
やがて演舞が終わりに近づく。舞の振り付けどおりに地面に膝を付いたローランに、木剣を突きつけた。これが最後だ。
結構な運動量に、息が切れる。その呼吸の音が聞こえるほど、観客席は静まり返っていた。
あまりの静けさに、
(ん? もしかして滑った?)
と観客の反応を不安に思っているところで、
「勝者リアーヌ・セネヴィル!」
というコルトーの声が響き渡った。途端に、わっと会場が沸く。
「では勝者リアーヌ•セネヴィルに、一言お願いします」
駆け寄ってきたレノーから拡声魔導具を手渡された。
言うべきことは決まっていた。
「皆様、応援ありがとうございました。ですが、ご覧のとおり私は女性で、騎士の卵であるシャルトル様は女性である私を叩きのめすことなんて、とてもできませんでした。けれどルールはルール。勝利の口づけはできませんが、皆様、映えある白騎士ローラン•シャルトル様に盛大な拍手を!」
学園一人気のあるローラン•シャルトルに恥をかかせてはいけない。そのためには自分は手加減されたのだ、と明らかにし謙虚な姿勢を示す必要があった。ローランを立てるのは業腹だが、まあ、これも処世術である。
リアーヌの言葉に呼応して、観客が一斉に拍手を送る。とても良い流れだ。
(これで大丈夫かな)
と安堵する。これでローランに口づけなどせずに戻れると踵を返そうとした、その時。
「気高き女神リアーヌ」
すっとローランが目の前に跪いてきた。
「敗者から勝者に口づけを」
優雅かつ隙のない動きで手を取られ、その甲に唇が触れた。
(ーーーーーーーえ?)
きゃーという女性の黄色い歓声が上がり、ぎゃーという白い一団の怒号が飛び、おーっという男性のどよめきが広がった。
そしてリアーヌは硬直した。
手とはいえ、ローランに口づけされたのだと理解すると、ぞわぞわと背中に鳥肌が立った。
しかしアンリの時よりも空気が読める人間になったリアーヌは、まさかここで、ローランを怒鳴りつけ、武闘大会の熱気と興奮をぶち壊すわけにはいかないと悟っている。
リアーヌは心を落ち着かさせるべく一度、大きく息を吸ったのち、
「まあ、シャルトル様ったら、お戯れを」
とすぐさま手を引っ込めた。
その場は引きつった笑みで何とか凌いだが、心の中は怒りで煮え繰り返っていた。




