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「で、どういうこと?」
「いやぁ、ご褒美があった方が盛り上がるだろうと思って」
その、とても軽い口調が火に油を注いだ。リアーヌの怒りが爆発する。
「ふざけないで!」
しかしコルトーは相変わらず飄々とした態度で、
「まあまあまあ」
と手をぱたぱた上下に振ってリアーヌを落ち着かせようとする。
「別に口にしろって言ってるわけじゃないから。額にちょと唇を当ててくれるだけでいいから。……って、お前、そんな堅いことを言う奴じゃなかっただろ?」
不思議そうな顔で言われ、リアーヌは思わず押し黙る。
確かに普段のリアーヌであれば、額に口づけくらい減るものでもないし、次期女領主の役割の一環として我慢するところだが。
(絶対無理!)
これまでとは状況が違う。ここにはローランがいる。そしてローランにだけは、額といえども口づけなどしたくない。
(だけど、絶対あいつが優勝するし)
やり直しの人生でも、ローランの頭の良さ、武芸の優秀さは健在だ。繰り返すが、自分の前身であるアンリは、血の滲むような努力の末に十分な強さを手に入れていたが、それでもローランに一度も勝てず、準優勝に甘んじた。
何度も痛感するのだ。認めるのは悔しいが、いつも勝てる気がしなかったと。
そして今の学園には、前回のアンリ以上の力を持った学生など恐らくいないだろう。つまり、ローランに勝てる学生などいないということだ。
「………」
リアーヌが唇を噛んで俯いていると、
「なあ、リアーヌ」
と不意にコルトーが真剣な声で呼びかけてきた。
「これは良い機会じゃないのか?」
「………え?」
コルトーの真意を測りかねて、顔を上げると、先ほどまでとは打って変わった厳しい表情で見つめられていた。
「いくらお前が女でも、シャルトル家の次男に舐められていい訳じゃないし、他の連中にも軽く見られていい訳じゃねえ」
この世界でのセネヴィル家とシャルトル家の派閥争いは落ち着いている。第二夫人アンジェラが廃されシャルトル家の王家に対する影響力が低下しているからだろう。
それでも。
(セネヴィル家の矜持を見せろってことね)
古くからの名家セネヴィルの名は重い。恐らくコルトーが指摘したいのは、リアーヌ•セネヴィルはローラン•シャルトルと同じく、学園内で人の尊敬を集める存在であれ、ということだ。
「……つまり、どうしろと?」
「お前なら分かるだろ?」
そう言ってコルトーは、くいと闘技場を顎で指したのだった。
⭐︎
武闘大会は午後の部もつつがなく進んでいき、とうとう決勝戦が始まった。
リアーヌは再び目立たないよう気配を消して、司会者席の近くに潜み、試合の経過を観察していた。
結論。
(ローランはやっぱ強いわ)
決勝戦だというのに、まるで相手になっていない。対戦者は十七歳の六年生。二学年の差があるにもかかわらず大人と子供ほどの差だった。
しかし、目の肥えていない一般観戦者には、いい勝負をしているように見えるだろう。ローランが、そのように見せている。
ローランは紳士だ。一撃で倒して相手に屈辱を抱かせる、などということはせず、適度に対戦者にも見せ場を作って花を持たせている。この武闘大会は、学生の家族も観戦しているので、そういった配慮も怠らない。
ーー実力差があるが故に成せる業だ。
(けっ、余裕なことで)
とやさぐれた気持ちになる。
ちなみにアンリには、そんな配慮はなされなかった。忘れもしない、十二歳、一年生の夏。両親が観戦している前で、決勝戦でボコボコにされた。悔しくて、寮に戻って泣いた。
(あの男は、絶対私のことが嫌いだった……!)
リアーヌが前回の記憶に悶々としている間にも、ローランは少しずつ、違和感なく、上手に手加減しながら対戦者を追い詰めていく。
やがて、相手が地面にがっくりと膝をついたところに、ローランが木刀を突き付ける。
ーー勝者が決まった瞬間だった。




